うんち君のこぼればなし
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スタンド・バイ・ミー

 『スタンド・バイ・ミー』という曲は、オリジナルにしてもカバーにしても、あまりに頻繁に聞かされるからいいかげん飽き飽きしているのだが、今回のこの話にはBGMとしてかけてもらうといいかも知れない。ほんのちょっと、映画の『スタンド・バイ・ミー』に似てないこともないので。

 これは、少年たちが、ある物を求めて小さな冒険旅行をする物語である。

 …とは言えない。訂正。

 これは、少年たちが、ある物を求めて歩いて買い物に行く物語である。

 もう30年以上前になるが、仮面ライダースナックというものが流行った。一袋40円ぐらいだったか。甘い味のスナックで、その美味しさに子供たちが虜になって、狂ったように買いあさった。…というわけではない。まあ、味は悪くなくて、毎日食べても平気ではあったが、子供たちの目当ては一袋に一つ入っているライダーカードであった。虜になったのはほとんど男の子だったのは当然だが、彼らは続き番号のカードを全て集めようと、お互いの不足分を交換しあったりして大変に盛り上がったものである。中には裏にラッキーカードと書いてあるものがあって、それを販売元のカルビーに送るとカード用のアルバムがもらえる。アルバムには図柄が何種類もあって、どれがもらえるかワクワクするのだが、ラッキーカードの写真がまだ持っていないものだったりすると、送るか送るまいか悩んだりする。

 このライダースナック、いつもきまった店で買ってばかりいると、同じカードばかりが出てしまったりするので、まわりから情報を集めながらあっちこっちの店で買う。すると、まだみんながほとんど見たことのない新しいカードをいち早く手に入れることができたり、手に入れ損なったちょっと古い番号のカードを入手できたりする。

 ある時、兄の友達から耳寄りな情報が入った。隣の学区にある店で、考えられないぐらい新しいカードが手に入るという。その頃、テレビの仮面ライダーは終盤を迎えており、あと数回で最終回というところだった。ゲルショッカーの首領という、言うならばラスボスが出てこようかという大詰めの時期で、皆その正体には興味津々だった。首領は最初、赤い頭巾をかぶっていたが、頭巾を取るとその下の頭には何匹もの蛇が絡まって顔を覆っていた。その蛇の下にこそ本当の顔がある、なんて設定だった。テレビではまだその本当の顔は出て来ていないのに、その店で売っているライダースナックには、

「これが首領の正体だ!」

 なんていう、テレビより先を行ったカードが入っているらしい。その情報に興奮した兄とその友人たち数人は、連れ立ってその店に行くことにした。そして、その話をたまたま耳にした私も急遽兄たちに付いて行くことにしたのである。

 時期は真冬だった。時刻は3時頃だっただろうか。出発した頃、まだ外は晴れていて比較的暖かかった。私はさほど寒くないだろうと高をくくって、手袋も持たず、ジャンパーも着ずに、セーター姿で出発した。出がけに、

「そんな格好で寒くないか」

 と兄に言われたが、大丈夫だと答えた。しかし、大丈夫ではなかった。仙台の冬はなかなか寒い。歩き始めると雪がちらついて来た。たちまちのうちに体中が冷えてしまったが、いまさら引き返すわけにも行かない。私は身体を震わせながら歩き続けた。お店は遠い。歩いても歩いてもなかなか辿り着かない。といっても、隣の学区だからせいぜいが片道3,40分といった道程だが、遊びに行った時にはずいぶんと遠いと感じていた友達の家さえも遥かに越えて歩き続けるというのは、子供にとってかなりの距離感である。

 途中、我々は線路を歩き始めた。鉄橋を渡り始めて、ちょうど真ん中まで来たあたりで、列車の音が聞こえてきた。単線のため、逃げ場がない。皆は大急ぎで駆け戻り始めたが、一人が線路の隙間に足を取られて動けなくなった。

「早く!早く!」

 と、皆が叫んでも、慌てた彼はなかなか足を抜くことができない。列車はみるみる近づいてくる。警笛が激しく鳴った。

「うわー!」

 …なんて出来事はなかった。線路敷なんかに立ち入っちゃいけないのである。そもそも近くに線路などない。というわけで、我々はちゃんと道路を歩いた。

 ようやく辿り着いた店で我々はそれぞれが4,5袋ぐらいは買ったと思う。カードの袋を開けてビックリ、近所の店で手に入るものよりずっと先の番号である。途中の番号がいくつも抜けてしまうぐらいの先取り具合であった。

「これが首領の正体か!」

 首領は、真っ白の頭に巨大な一つ目の怪人であった。手にしたカードはことごとくが見たことのないものばかりで、我々はその成果に大いに満足した。店の中の暖房と喜びの興奮で、冷えきっていた私の体も多少は温まった。しかし、薄暗くなって、冷え込みはますます厳しくなってきた。雪も本格的に降り始め、私の体は再び冷え切ってしまった。ライダースナックを食べても体は温まらない。とにかく早く家に帰り着きたいのだが、まだ数十分の道程が待っていた。

 やっと馴染みのある風景になり、家まであと15分ぐらいというところに来て、ピーという聞きなれた音に出会った。焼き芋屋である。寒さに凍えていた私は、フラフラと吸い寄せられるように、その熱気溢れる軽トラックに近づいていった。しかし、ライダースナックに小遣いをほとんどはたいてしまったので、財布の中には50円ほどしか残っていない。兄と合わせても150円ぐらいだったと思う。その金で半切れほどの焼き芋を売ってもらった。子供なので多少は多めにくれたかも知れない。その焼き芋でまずはかじかんだ手を温め、そして兄と分けあって食べて、中から体を温めた。このわずかの焼き芋がどれほど私を元気にしてくれたか知れない。私の体は限界に近づいていた。もしもこの焼き芋がなければ、家に辿り着く前に凍死していたかも知れない。まあ、間違いなくしてないが、とにかく、人生最大の凍え状態であったのだ。あの時の焼き芋の味は今でもはっきり覚えている。…と言いたいところだが、焼き芋の味なんていつ食べても似たようなものなので、その焼き芋の味だけを特別に覚えているなんてことはない。

 さて、ライダーカードはほぼコンプリートで揃えていたと思うが、何かの時に誰かにあげてしまったような気がする。とにかく今は実家にもどこにもない。これを書くにあたってネットで調べてみたら、ものによってはものすごい値段で取引されているようで、随分惜しいことをしたという気がするが、しょうがない。

 やっぱりあんまり『スタンド・バイ・ミー』じゃなかったので、途中でフィクションを入れてみた次第。

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