うんち君のこぼればなし
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ロクモンス解説

 もう30年前後昔の話だが、私の通っていた小学校では、周期的にいくつかの遊びがブームになる傾向があった。女子は女子でまたいろいろあったのだろうが、詳しいことはよくわからないので男子について紹介すると、メンコ(うちの学校では『パッタ』といった)、コマ(木製のケンカごま)、ビー玉(私の在学中には1度しかブームがなかったが、兄の世代では割と盛んだったようである)が基本の3大競技で、時々期間限定の特殊な遊び(例えば“ヨーヨーチャンピオン”なるものが学校のそばでデモンストレーションをする一大キャンペーンによって大ブームとなったスーパーヨーヨーや、近所の駄菓子屋が力を入れた為に流行となったベーゴマなど)をはさみながら、順番にブームを繰り返していた。

 そうしたブームとは別に、男子の定番遊びとして『ロクモンス』が存在した。ロクモンスは三角ベースの一種と言えなくもない球技だが、得点無し、勝敗無し、終わり無し、という点で、野球のような球技とは全く違う、やはり鬼ごっこやかくれんぼ等といった子供の遊びに近い性格を持つものだと考えられる。しかし、そのルールは単純過ぎず、複雑過ぎず、極めて合理的、魅力的に作られており、時間があれば子供たちは永遠に熱中し続けるという程の、優れた完成度を誇っている。

 インターネットで調べてみると、私の育った仙台市内ではいくつかの小学校で行われていたようであるし、仙台市外でも、同じ宮城県内の塩釜市の小学校でロクモンスが行われていたという記述を発見した。国道4号線沿いの小学校を中心にロクモンスの輪は広がっていたという話もあるが、塩釜市は4号線からははずれている。宮城県外においてはロクモンスの存在はほとんど確認されていないようで、小学時代に山形へ引っ越しした方が、ロクモンスが認知されていない事実を確認しているようだ。さらに、現代に目を向ければ、かつて盛んにロクモンスが行われていた仙台市内の母校において、現在では完全にロクモンスが絶滅していることを確認したという記述もあった。概ねそんなところが、ロクモンスの置かれた過去と現在の状況である。

「私は○○県の○○市の出身だけれど、昭和○○年頃、私の小学校でもロクモンスが行われていた」

 とか、

「ロクモンスの起源は、昭和○○年、○○県の某氏の発案により始められたものだ」

 などという情報があれば、是非掲示板等を通して持ち寄られたい。ブログなどでロクモンスについて書かれている方々も、その辺の情報を求めているようである。みなさんで、ロクモンスの謎を解き明かそうではないか! というほど、気張った気持ちもないけれど。

 さて、ほとんどの方がロクモンスの何たるかを御存知ないはずなので、その中身について御説明申し上げる(なんか、馬鹿丁寧だが)。

 ロクモンスには種類があって、4人以上の大人数で行う『クミロク』、2人以上の少人数で行う『バラロク』(4人以上でもバラロクで遊ぶことは可能)、小腹が減った時に行う『チビロク』とがあった。『チビロク』の場合、ボクはひとつ、ママはふたつ、パパはみっつである。えー、『チビロク』は嘘で、これは昔ちょっと流行った袋入りのインスタントラーメンだ。というわけで、正しくは、ロクモンスには『クミロク』と『バラロク』との2種類だけがあった。人数によって多少のルール変更を行い、状況に応じた最適化を図っているあたり、やはり背後にはこれを考案した賢者がいるのかと想像しなくもないが、もしかすると子供たちが自ら考案、アレンジしたものかも知れず、そうだとすれば、ロクモンスの存在は、子供たちの頭脳は決して侮れない、という証左になるだろう。

 ロクモンスの『ロク』、これは間違いなく数字の6のことである。ベースを6周することがロクモンスのひとつの目的となっているからだ。『モンス』については、これが全く不明である。『申す』が変化したものではないかとか、『文』が変化したものではないかといった推測が子供たちの間でなされていた気もするが、起源が解らない以上はなんとも言えない。ゲーム上、モンスという意味のある行為が出てくることもないから、『モンス』の謎については将来の研究を待つしかあるまい(研究があるともあまり思えないが)。

 バラロクはクミロクをちょっとアレンジした形なので、ひとまずクミロクを説明する。なお、あくまでこれは私の小学校でのロクモンスのルールであるから、他の学校のルールとは違うところがあるかも知れない。そもそも、細部については、だいぶあやふやな記憶もある。

 ロクモンスのコートというかグランドは、ホーム、ファースト、セカンドの3つのベースからなる。それぞれのベースは丸く、ホームベースは直径2m前後、他のベースは直径1m程度が一般的な大きさだったと思う。普通は校庭や空き地で遊ぶので、適当に足先で地面に線を引いて作る。各ベース間の距離は、おそらく10mぐらいでほど良く作る。各ベースの丸も全体の三角も、歪んでようが大きかろうが小さかろうが、特に気にすることはない。すべては『だいたい』でいい。

 基本的には野球と同様、ピッチャーが投げ、バッターが打ち、打ったらファーストに走り、順次セカンド、ホームへと進んで行く。ただし、ホームへ入っても得点ではなく、ランナーは再びファーストへと走って行くのがルールだ。3アウトになれば攻守が入れ替わるということも野球と同様ではある。ただ、アウトの取り方がちょっと違う。その辺は後述する。

 ボールは軟式のテニスボールかカラーボールを使う。我々の時代の後半はカラーボール全盛だった。軟式テニスのボールは柔らか過ぎてちょっと扱いにくいので、カラーボールがある時にはそちらが望ましい。

 まず、参加者を2組に分ける。このことから、クミロクの『クミ』とは、『組』のことと見て間違いない。遊ぶ人数は何人でもいいのだが、あまり多過ぎると遊びにくいので、6,7人ずつぐらいがちょうどよいかと思われる。人数が奇数だったら、どちらかが一人多くなるが、別にそれでも特に問題はない。組み分けの方法としては、クラスで幅を効かせている2人がそれぞれの組のリーダーになって、ジャンケンをしながら好きなメンバーを順番に選んで行くという、よくあるアレが普通である。幅を効かせているわけのない私は、もちろんいつも受動的に選ばれるばかりの側だった。普通はそうやって決まるが、別に組み分けの仕方にまできっちりとしたルールがあるわけではない。組み分けが終わったら、攻撃側と守備側とに分かれるが、勝ち負けのないこの遊びにおいては、守備側というのは、言わば『鬼』である。鬼である守備側にならないために、なるべく攻撃をし続けるというのがロクモンスの目標といえば目標だ。うまくすれば、限りなく攻撃をし続ける事も出来る。

 攻撃側か守備側かはたぶんこれもジャンケンで決めるのだったと思うが、その結果が出たとたんに攻防は始まる。攻撃側になったチームの1人が、ボールを地面に思い切り叩きつけ、攻撃側の人間は急いでホームベースに駆け込んで行く。ホームに駆け込んだ順番に、

「いーち番!」
「にー番!」
「さーん番!」

 と列を作って打順が決まって行く。

 ところで、攻撃側のメンバーは、打順を早めるためにだけ急いでホームへ駆け込むわけではない。地面に叩きつけられたボールを守備側のメンバーが取ると、まだホームへ辿り付いていない攻撃側のメンバーにそのボールをタッチすることによりアウトがとれる。ワンタッチにつきワンアウト、同じ相手に対しても、3回続けてトントントンとタッチすれば3アウトになって一挙にチェンジとなる。ただし、この3連続タッチアウトについては、選択ルールとして採用しないことがあった気もする。なんせ、鈍くさい奴がいると、ガチッと腕をつかまれたりして、簡単に3タッチされてしまうのだ。だからこういう可哀想な子は、いつも組み分けの最後に残るし、そのうちロクモンスには参加しなくなってしまったりする。タッチの他、ボールを投げてぶつけてもアウトとなる。このようにベースを離れているランナーをアウトにする方法は、『タッチアウト』か『ぶつけアウト』の2種類である。ゲームが始まる時およびチェンジになった時、ホームへ駆け込む途中の攻撃側のメンバーは、ベースを離れたランナーと同じ扱いになるので、ボールを当てられればアウトとなる。ゆえに、攻撃が始まる前にアウトカウントを増やさないように、攻撃側のメンバーは急いでホームに駆け込まなくてはならない。全員がホームに駆け込む前に3アウトにされてしまったら、攻撃をしないまま攻守交代となる。するとまた同じ事で、新たに攻撃側になったメンバーは、アウトにならないように急いでホームベースヘ駆け込み、打順を決めるということになる。

 無事攻撃側の全員がホームに駆け込んで打順が決まったら、いよいよプレー開始となる。まず1番バッターがホームベースへ入る。打順を待っているメンバーは、ベースを離れていてもランナー扱いにはならないから、ボールをタッチされてもぶつけられてもアウトにはならない。

 ピッチャーは守備側チームの1人が適当に選ばれて、下手投げで投げる。ピッチャーの交代の仕方に制限は全くない。1球ごとに代わろうが、何回入れ替わろうがかまわない。ピッチャーが投げる位置は、ベースを結んだ三角の真ん中あたり、ホームベースから距離にして4,5mが普通だろうか。キャッチャーはいない。他の守備陣は、ピッチャーの後ろに適当に散らばる。バッターは攻撃側で決めた順番によって、順々にホームベースに立ち、手で直接打つ。ストライクもボールもない。すなわち、三振もフォアボールもない。確かデッドボールもなかったと思う。あるいはデッドボールについては、選択ルールだったかも知れない。打ちたいと思えばグーでもパーでもチョキでも(チョキで打つ奴は普通いないが)好きなようにして打てばよい。たとえ絶好球であっても、打ちたくなければ打たなくてよい。その場合は投げられたボールをバッター自身がキャッチしてピッチャーに投げ返せばよい。ファールはあったと思う。ただ、ボールカウントが存在しないので、ファールフライ以外のファールには特に意味がない。

 打球がフライやライナーなら、フェアかファールかにかかわらず、守備側がそれをノーバウンドで触れればワンアウト、ノーバウンドでキャッチすれば一気に3アウトとなり、チェンジである。打球がゴロなら、フェアの場合は守備側がそれを拾い、ランナーがベース間にいる時にタッチかぶつけるかすれば、そのランナーはアウトになる。アウトにされそうになったランナーは、ベースを遥かに離れて、どこまでも逃げて行ってよい。この時、ボールを持った守備側のメンバーが、そのランナーを延々追いかけて行くことを『馬追い』とか『深追い』と呼んだ。ボールを持った人間が遠くまで走って行ってしまうと、残された連中はやる事がなくて手持ち無沙汰になるので、大抵の場合は『馬追い無し』という取り決めが事前になされた。というわけで、ランナーが遠くまで逃げてしまったら、構わず次のバッターに対して投球を始める。遠くへ逃げたランナーは、隙を見てベースへ戻ってくる。ランナーがアウトになることなくベースへ着けば、どんどん先へと進塁する。目標は6周である。ダイヤモンドを1周してホームベースへ帰ってきた時、ランナーは、

「1モン!」

 と宣言する。『モン』とは『モンス』の略である。以後、2周、3周とする度に、

「2モン!」
「3モン!」

 と宣言し、ついに6周した時に、

「ロークモン!」

 あるいは、

「ロークモンス!」

 と叫ぶ。

 ランナーのうちの1人が『ロクモンス』を達成したら、それまでのアウトカウントは0になり、全てはリセットされて、改めて攻撃側のメンバー全員がホームベースへと駆け込み、先着順に打順を決めて行く。ちなみに、塁上のランナーたちは、前のランナーに
追いつくことも追い抜く事も自由である。1つのベースに何人もが固まることもあるし、ホームベースにはランナーとバッターが同時に存在するということにもなる。野球と同様、ベースを逆行することはできない。

 ボールを持った守備陣からランナーが少し離れたところに居た時には、ぶつけアウトにしようとボールを投げるのが普通だが、アウトにするためには速い球を投げねばならず、しかしながら、速い球はランナーによけられた時には遠くまで転々と転がって行ってしまう。こんなときは攻撃側にとっては大チャンスで、ランナーたちは一生懸命に周回を重ね、一気にロクモンスを達成することも少なくない。そうした駆け引きもロクモンスの醍醐味のひとつだ。

 ところで、ダイヤモンドを6周するということは、かなりの間、ランナーであり続けるということだ。つまりは、バッターが足りなくなって、最初に決めた打順通りにはいかなくなる。もしもアウトになったメンバーがいれば、ランナーを除いた打順でもう一度打席に立つ。攻撃側の人間が全て塁上に出てしまって、バッターがいなくなってしまったらどうするか。その場合、

『幽霊』

 というシステムが存在した。幽霊とは、見えないランナーということだ。バッターがいないとゲームが進まないので、ランナーの1人が塁を離れ、そこに幽霊ランナーがいることにして、打席に入る。その時は最初の打順通りになるので、ランナーのうち、最初に打ったバッターが打席に入ることになる。たとえば鬼山君という子がいたとして(別に私だというわけじゃない)、彼が5モンスして最後の周のファーストにいたとする。あと2つ進塁すれば6モンスだ(ベースはセカンドまでしかない)。ここでバッターがいなくなったので、最初のバッターだった鬼山君が打席に入る。ランナーは『幽霊』となる。これで鬼山君がヒットを打ち、セカンドまで進んだとしたら、その時点で『幽霊』も2つ進塁したとみなされ、6モンス達成となる。鬼山君がアウトになったり(まだ3アウトじゃない場合)、シングルヒットだったりしたら、幽霊ランナーはまだ6周目の塁上にいるので、鬼山君の『幽霊』は本人に戻る。この時に新たにランナーになった鬼山君は、大勢に影響がないので無視する。つまり、本人と幽霊とが同時にランナーとして存在することはないということだ。

 以上がロクモンスのうちのクミロクのルールである。こうして子供たちは、勝ち負けもないゲームを、目的も無く、ただバカみたいに延々繰り返すのだ。それも年がら年中。なにが面白いのかよくわからないが、なんだか熱中するロクモンス。一気に3アウトチェンジとなる展開のスピーディーさ、3アウトによるチェンジが先か、ロクモンス達成によるリセットが先か、という緊迫感、投げる、打つ、走る、ぶつけるといった多様性も魅力かも知れない。とにかく、実に素晴らしい遊びなのである。ただ、熱中するのは普通クミロクだけで、バラロクの場合はそうでもない。

 バラロクの場合は、ピッチャー対他の参加者という形になる。攻撃側の1人が3アウトになれば、その人間がピッチャーとなる。ピッチャー以外の人間が複数いれば、攻撃時は仮のチームのような形になるが、あくまでも個人戦なので、誰かがアウトになる度に組み替えがあると思えばよい。クミロクとバラロクの違いはそれだけのことだが、バラロクにはかなりの無理があると言えなくはない。なぜならば、ランナーが絶対的に足りないからだ。

 たとえば、3人でバラロクをやった場合、1打席ごとにランナーに幽霊を立て、ランナーとバッターを交互にやらなければならない。これはかなり煩わしい。さらに、バラロクは最低2人で遊ぶこともできるが、その場合のつまらなさはまさに最低である。そのとてつもないつまらなさは、言うなれば2人でババ抜きをしている感じに似ているかも知れない。なんせ2人バラロクにはランナーがいない。バッターがヒットを打つと、そのランナーを『幽霊』として、またすぐにバッターとなる。次にヒットを打った時のバッターランナーの進み具合にあわせて幽霊ランナーも進塁すると考えるから、幽霊ランナーは、要するに塁打数の合計分だけ進塁して行く。ヒットを打てばどんどん幽霊ランナーは増えて行くのが本当だが、2番目以降の幽霊ランナーは、先頭の幽霊ランナーを抜くことができないから、先にロクモンスを達成できるはずがなく、つまりはその存在を無視しても差し支えない。というわけで、投げて、打って、ちょっと走って、ホームに戻って、投げて、打って、ちょっと走って、ホームに戻って、と、ひたすら繰り返す。ロクモンスを達成するのもほぼ間違いなく『幽霊』であるから(バッターランナーが一気に6周する可能性もないことはない)、

「これでロクモン! …のはず!」

 みたいなことになって、少し遊ぶと、その絶望的な虚しさにたちまち嫌気が差すので、バラロクはほとんど行われることがない。

 ここまで書いてきたが、ロクモンスを知らずに読んでる方にはなんだか分からないだろうし、面倒くさくてきっと斜め読みされているに違いないとも思うが、それでも充分だ。なんとなれば、この文章の目的はすでに絶滅あるいは絶滅の危機に瀕している『ロクモンス』のルールを書き記すことにあるからだ。ネットで調べてみても、往年のロクモンス少年たちが、その思い出を語ることはあっても、詳しいルール説明をしている文章に出会ったことがない。誰かがロクモンスを復興しようとしたときに、このささやかな文章が役立つことがあれば幸いである。

 でも、わかるかな、これで。

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