うんち君のこぼればなし
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驚愕のシャツ

 毎年12月27,28,29日の3日間、東京都中央区の東日本橋で大出庫(おおでこ)市が開かれる。衣料品を中心とした出店が数百メートルに渡って立ち並び、最終日の夜ともなると、かなりの破格値で商品を手に入れることができる。紳士用のジャケットが1着1000円だったり、9000円するブーツが500円だったり、8万円するコートが3万円だったりで、この市での買い出しは貧乏な我が家にとっては欠かすことのできない恒例行事である。最近は不景気のせいか、売る方も買う方もなんとなく元気が無く、10年前のような賑わいは感じられないが、それでも行ってみれば何かしらの掘り出し物を手に入れることはできる。

 昨年の末は1000円のジャケットを2着買った。ただし、そのうち1着はそのままでは着れないものだった。なにやら袖が開いてバサバサしているのでいざ閉めようとしたら、ボタンはついているもののボタンの穴がない。結局、家で妻に開けてもらったが、こうしたいわく付きの商品が混じっていたりすることも安さの秘密ではある。

 昨年はもう一つ、とても面白いものを買うことができた。それこそが『驚愕のシャツ』 なのだが、おそらくこんなものには人生で二度と出会えないだろうと思う。

 長袖のTシャツと言えるのだろうか。やや厚めの黒い生地で丸首の襟が色違いで縫いつけてある。襟にはボタンが2つ付いていて、5センチほど開くようになっている。デザインが気に入ったので透明のビニールに入ったままサイズだけ合わせて1500円で購入した。

 家に帰ると早速着てみることにした。袋からシャツを取り出し、襟のボタンをはずして両袖を通し、最後に頭を突っ込んだ。

「はて?」

 私はかぶりかけたシャツから一度頭を抜いた。どうやら襟のボタンをちゃんと外していなかったようだ。ちゃんとボタンを外して…。

「はて?」

 ボタンはちゃんと外れているようだ。これ以上は外れようもない。きっと何かの勘違いだったに違いない。私はもう一度シャツに頭を突っ込んだ。

「いやいや、まさか」

 世の中にそんなものが売っているわけがない。もう一度頭を抜くと、よくシャツを眺めてみた。どこかに隠しボタンでも…。しかし、それ以上外すべきボタンは何もない。他に伸びるようなところもない。何度挑んでみても、しっかりと丈夫に縫い付けられた襟は少しも伸びることはない。私はジャミラみたいになったままただ笑うしかなかった。

 取り替えてもらおうにも出店は終わっているし、レシートもないからどこの誰から買ったのかさえわからない。わざわざ2時間近くをかけて聞き込みに行く気にもならないから結局そのままになった。ジャケットのボタン穴とは違って妻では直せないというから、着ることもあきらめた。現在、このシャツは何かの時のために家のどこかにしまってある。

 それにしても、こんなものをどこの誰が作っているのだろうか。おそらく売ってる方は買う方と一緒で、そんな商品だとは夢にも思っていないのだろうから、それ程攻める気にはならないが(それでも商品管理という点で無責任極まりないけれど)、作っている連中に対してはひたすらあきれるばかりである。女子中高生が家庭科の授業で間違って作ったというならともかく、知ってか知らずか、この頭が通らないシャツをおそらくは何十枚何百枚というオーダーで作り続けた人々がいるのだ。まさに『驚愕のシャツ』、そしてそれを作った『驚愕の人々』である。

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