うんち君のこぼればなし
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激辛カレーの旅

 以前勤めていた会社のすぐそばに欧風カレーの店『プティフ・ア・ラ・カンパーニュ』があった。ちょっと高めだが、ふかしたジャガイモも付いたりして、とてもおいしいので割と頻繁に食べに行った。ビーフ、ポーク、チキン、エビ、アサリ、カニなど種類も幾つかあって、辛さも選べる。このホームページ立ち上げ記念にジャンク阿津又氏(彼とは以前の会社で共に働いた仲なので、この店には思い出がある)と久しぶりにこの店を訪れようかという話もある。

 また、会社のそばには日本テレビもあった。いつも日テレの前を歩いて通勤していたので、当時帯で番組の司会をやっていた山本コータロー氏とは毎朝すれ違っていたものだ。休日出勤で日曜の昼頃に駅を出ると、日テレ前にアイドルの追っかけギャルがごまんといて、歩きにくかったりしたこともよくあった。そういえば全くの余談だが、思い出したのでついでに書いておこう。

 朝の通勤時、だいたいは遅刻ギリギリで歩いているので私の足は早歩きだった。当然のごとく、駅からしばらく同じルートを歩くサラリーマンやOLも何人かはいるわけで、彼らも早足だったり、時々は走ったりもする。男の私の早歩きに比べると普通の女性の足は遅いので、私より速く進もうとすれば女性は走るしかない。ある朝、私が歩いている後ろから女性の走る靴音が聞こえてきた。女性はそのまま私の横を走って追い抜いていった。道は狭くはないが、車も通るので女性は私を追い抜くと道の端に寄って私の目の前に来た。するとそこで力尽きたのか、急にゆっくり歩き出した。一定のペースで歩き続けている私はたちまちその女性の背中に接近していく。そのままでは女性にぶつかるので、仕方なく進路を少し横に振って女性を追い越した。
「まったく、邪魔をするな、邪魔を」
 そんな風に思いながらまたペースを取り戻して歩き出した。すると、少し経ったところでまた後ろから走る足音が聞こえてくる。同じ女性が再び私を走って追い越すと、私の前にきたところでまた歩き出した。
「なんだ、お前は。わざとやってんのか」
 そんな風にまた思いながら仕方なく女性を追い越す。そして、女性は三度同じことを繰り返した。
「お前は俺の邪魔をするために生まれてきたのか!」
 そう言いたくなるほどの徹底ぶりだった。3回も繰り返した人は他にはいないが、こんなことをする女性はこの人だけではない。悪気がないのは分かっているが、周りの状況を考えて、半端な行動は慎んでいただきたいと願う。

 さて、そんなことはどうでもいいのだが、その日テレの南向かいにインド料理の店『アジャンタ』がある。普通のサラリーマンが頻繁に通うような値段ではないので、たまに誘われたときや、どうしても食べたくなったときに何度か行ったことがある。店で働いているのはほとんどがインド方面風の方々で、ぎこちない日本語が飛び交う。小さいゴキブリが歩いていたりすることもあったが、ああいうところでゴキブリを根絶やしにすることはほとんど不可能だろうから大目に見る。とはいえ、店は小ぎれいだし、なんと言ってもとてもおいしい。料理もうまいし、コーヒーもうまい。店内で有名人を見かけたことはないが、ユダヤ教徒のような真っ黒い服装に、美しい髭をたくわえたなんとも荘厳な老外国人を見たことがあって、なにやら強く印象に残っている。しかし、別にこの老人は話には何の関係もない。

 この『アジャンタ』のカレーは種類が豊富でとてもおいしいのだが、基本的には大変に辛い。中にはそれ程辛くないものもあるが、私の好みはかなり辛いやつである。そのカレーをナンやチャパティといったインドのパンにのせて食べると、どうにも旨すぎて泣きたくなるほどだ。泣かないけれど。だが、泣かない代わりに大汗をかく。テーブルに常備してある付け合わせのピクルス(だと思うが)も色が赤くて辛い。が、これも旨いので一緒に食べるとますます辛い。辛いのは“とりあえずは”それほど苦にならないので、いい気になって勢いよく食べる。最初に『アジャンタ』で食事をしたときに、カレーの中にそのままの形で入っている鷹の爪までをも馬鹿みたいに噛んで食べたら、唇が猛烈にピリピリしだして、そのまま2,3時間は唇が倍ぐらいに腫れ上がっているのではないかと思うほどの痛み具合だった。それで懲りたので、その後は鷹の爪は皿の端に除けておくようになった。

 激辛カレーは私の体には強烈過ぎるようだ。ほとんどの場合は下痢になる。世の中ではカレーには水が付き物みたいに思われているきらいがあるが、このような激烈な辛さに対しては、水では却って口の中が痛いほどの刺激を受ける。こうした辛さにはヨーグルトドリンクや牛乳といった乳飲料を合わせて口にするとよい。驚くほど辛さが和らげられる。
ただし、乳製品は私にとっては下痢のもとなので、激辛カレーそのものの刺激と相まって翌日の腹下し確率は極めて高くなる。さらに下痢のもとであるビールを飲み、最後に極めつけの下痢のもとであるコーヒーまで飲むことが多いので、『アジャンタ』の翌日はまず間違いなく100%の降腹確率となる。

 下痢をするということは、消化が不完全ということである。ちゃんと消化していないので、私の体内では激辛カレーがそのアイデンティティを保持し続けている。どういうことかと言えば、激辛カレーの辛さが最後まで失われることなく、その居場所が刺激されて熱いのである。まず唇を腫らし(たような気がするほど熱くし)、口の中をヒリヒリにして胃に入る。食道は一気に通過するので特に被害はない。とりあえず食後しばらくの間は胃の中が熱くてたまらない。軽い痛みを感じるほどだ。一時間ほど経つと熱さがやや下方へ移動し、カレーが胃を通過したことを知る。その後は熱さが下腹部の中を経回る。夜、布団に入る頃には、この煮えたぎるような下腹部がうなりを上げている。それをなんとかなだめながら眠りにつくが、翌朝になっても腹の熱さは衰える気配がない。だが気が付けばその居所は随分と出口に近づいている。こんな朝はたいがい月曜日である。私はまたいつものように苦しみ悶えながら会社へ行き(「うんち君概論」参照)、そしてなんとか無事解放される。だが、その解放のされ方は通常の下痢とは若干異なっている。こいつはちょっと危険なのだ。この元激辛カレーは最後まで熱い。出てきたと思ったら出口をピリピリにする。普段のように「たっぷり時間をかけて、すっきりしきってから出口をきれいにしましょう」なんて思っていると痛くて我慢できないのだ。だから小出しになった場合などはその都度こまめにきれいにしないといけない。女性に限らず何に対してでも全くまめでない私としては、ちょっと面倒くさい。

 こうして最初に唇をピリピリにして入っていった激辛カレーは、己の存在を強烈にアピールしながら私の体内を回り、最後の門までをもピリピリにしてその旅を終える。これほどにピリピリであるということは、探求心旺盛なリサイクル野郎(「リサイクル」参照)が確かめてみれば、それはやはりまだ随分と激辛であるに違いない。私は決して確かめないけれど。

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