フランク・フリップ
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スティーヴ・ヴァイ 〜Steve Vai〜

 このフランク・フリップのコーナーも回を重ねて、それなりに色んな人の目に触れるようになってきたようだ。ただの素人リスナーでしかない私なんかに比べたらよっぽど事情に詳しい方々が、

「なーに言っちゃってんでい」

 てなことを思いながら眺めていることも幾らかはありそうな気配でもある。そうした本職やら事情通の方々に覗かれているかと思うと非常に書きにくいものだが、そんな事を言っていては何も書けなくなってしまうので、開き直って書くしかあるまい。

 スティーヴ・ヴァイなんぞと言えば、それこそ熱烈なマニアが多そうなので、滅多な事は書けそうにない。というわけで、滅多じゃないことを探り探り書いてみるとどんなことになろうか。

 爬虫類系だねえ。頬がこけているねえ。ギターが抜群にうまいねえ。ザッパ・バンドがプロ・キャリアの最初だったみたいだねえ。最初は採譜専門で働いていたらしいねえ。ホワイトスネイクのギタリストもやったりしていたらしいねえ。サッカー番組のゴール・シーン・ダイジェストのバックなんかによく彼の曲が流れてるよねえ。

 てな感じか。この程度なら問題はあるまい。

「スティーヴの頬はこけてなんかいない!」

 なんて言ってくる人がいるかもしれないが、それに対しては、

「結構こけていると思いますよ」

 と、ここんところは自信を持って答えよう。

 しかし、この程度で話が終わってもしょうがないので、もう少し掘り下げて書いてみる。まずはこの、彼の頬こけ問題から。

 かつて人相見の先生が、中畑清氏(元讀売ジャイアンツ)の顔を見て、

「ずいぶん頬がこけている人だねえ。こういう人はまじめで気苦労の多いタイプでね、もう少し気楽に考えるようにしたほうがいいですよ」

 というような事を言っていた。スティーヴ・ヴァイも、ヘビメタなんてくくりに入れられて、一見華やかなイメージばかりをもたれてしまうかも知れないが、しかし実際にはどれほど生真面目で努力家であるか知れないといつも思うのである。あれほどの演奏をするには生半可な努力では足りないはずで、偏執的なまでの執着と鍛練を持ち続けているに違いないと想像する。徹底的に自分を追い込んで高みを目指して行くタイプなのかも知れない。それが彼の頬をこけさせているのではないか。てなことを思ったりする。

 私は基本的にヘビメタは聴かない。洋楽を聴き始めた頃、レインボーとかブルー・オイスター・カルトなんかを暫くは聴いていたものだが、その先へは行かなかった。ひとくちにヘビメタと言ってもそれなりに色々なタイプがあろうから一概には言えないかも知れないが、ヘビメタというものは確かに音こそヘヴィーだが、とてもポップで聴きやすいメロディーラインを持っていることが多い。特にヘビメタ独特とも言うべき甘ったるいバラードなんかがあって、私などからするとちょっと恥ずかしいというか格好悪いというかクサイというか、『正聴に絶えない』という感じがあったりする。スティーブ・ヴァイにもそういう色合いは多少なりともある。ではどうして聴くのかというと、ひと言で言えばザッパファミリーであるから、ということに尽きるが、ザッパと接点を持つことで、普通のヘビメタとは一線を画しているからと言い換える事も出来る。でも、なんだかんだ言って結局は彼の音楽が私は結構好きなのである。

 聴き易すぎるとか甘ったるすぎるというのはヘビメタというジャンルが持つ特質というものなのかも知れないが、ヘビメタにはもう一つの特徴があって、それは何かというと、彼らはプレイヤーとしての技量が総じて高いということであろうと思う。アーティストである、ということとは別に、彼らには職人気質があるように思う。この30年ほどの間にある程度様式化・固定化されたヘヴィ・メタルというフォーマットに従いながら、純然たるテクニックを競いあうというような、そういう伝統芸能的な文化が出来上がっているように思う。というか、まずは上手く速くということが前提であって、それを満たさなければヘビメタには成り得ないという、そういう一ジャンルが確立しているように思う。

 と、いろんなことを言えるほどヘビメタというものを網羅的に比較検討したわけでもないので、実のところは単なる印象・当て推量にすぎない。まあ、その当て推量にあてはめてみると、スティーヴ・ヴァイなんて人は、人間国宝級の職人芸を身に付けたギタリストなんだろう。最近のギターキッズの憧れの頂点にいるらしき事がそこかしこに書かれているので、もうこの人は神様級なんだろうが、音楽的に見ると、単なるヘビメタ・ギタリストではない。そもそもが自分からザッパに接触することでそのプロ・キャリアを始めたらしいので、当然ながらザッパ的音楽感覚を共有する部分があろうし、息子でもないのに“ザッパの遺伝子を受け継いでいる”などと言われるぐらいに影響も受けている。彼がザッパバンドにもたらしたものも多くあるが、バンドの中での彼のプレイはハードで技量抜群ではあるものの、ヘビメタというほどのものではない。当時の彼が音楽的にどこへ向かおうとしていたのか、実際のところまだ未定といった状態だったのだろうと思う。ファースト・ソロ・アルバムである『フレクサブル / FLEX-ABLE』を聴くと、そのところがよくわかる。あれはほとんどヘヴィ・メタルではない。ザッパの音楽的手法を多く取り入れながら、彼独自の新たな音楽スタイルを模索しているという、なんとも言えない珍奇なアルバムだと言えよう。あんなアルバムは世の中に2つとない。いかにも未完成という出来に思えるが、それでも彼の持つポテンシャルの高さを充分に予感させる作品にはなっていて、それが後の“完成された”作品群へと発展して行く。その後の彼の作品を聴けば、その完成度の高さに驚かされる。音楽的な嗜好はだいぶ違っているようだが、仕事に対する取り組み方という面で、その気質は親分ザッパに随分と似ているスティーヴ・ヴァイである、と思う。

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