フランク・フリップ
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トッド・ラングレン 〜Todd Rundgren〜

 この人のキャリアはとても長いが、それに比例して顔もとりわけ長い。と書くと、キャリアとともに顔が長くなっていったような意味になるから、比例というのはウソである。幼少の頃にデビューしたならいざ知らず、青年期以降にデビューした人間の顔がそうそう伸び縮みするわけもないので、こんなことを改めて言う必要もないのだが、実はデビュー当時からこの人の顔はとても長い。びっくりするほど長い。間違って写真を縦方向にだけ引き伸ばしちゃったんじゃないかと思うほど長い。丸顔の私の顔を縦に2つ並べたぐらいに長い。私は自分の顔がもうちょっと細長かったらいいと思うことがあるが、トッド・ラングレンの顔の長さにはさすがに全く憧れない。ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズをも凌ぐに違いない彼は、洋楽界の長顔チャンピオンである。

 また顔の話をしてしまった。このコーナーはアーティストの顔について語るのが主なテーマだと思われている向きもあるかも知れないが、実はそうではない。音楽について語るコーナーだ。たぶん。というわけで、トッド・ラングレンの音楽について。

 世界的な人気と実力を備えていながら、日本では今一つ盛り上がらないアーティストの筆頭としていつも名前を挙げられるトッド・ラングレンだが、結局さほど盛り上がらないまま、いい歳になってしまった。私の中でもかつてはさほど盛り上がる存在ではなかったが、このところ割と盛り上がってきた。当然人によって好みはあるだろうが、この人の才能の豊かさが並でないことは確かだ。ただ顔が長いだけの人じゃない。クリムゾンやザッパばかりを好んで聴いていた耳には、最初、この人の音楽はポップ過ぎる気がしたし、女性の心に響くような素敵なバラードが多すぎる気もした。しかし、だからといって、面白みのない常識的なアーティストかと思ったら大間違いで、少年時代は全てに対して個人主義の問題児だったという逸話が物語るように、相当なひねくれ者に違いないのだ。

 この人のアルバムを聴くと、
「なにか普通と違う事をやっておきたい」
 という匂いがプンプンする。性格的なものだけではなく、溢れる才能から来る自信と余裕の成せる技なのだろう。そういうことがわかって来てからは、確実に楽しませてもらえる安心感と、何か面白い事をやってくれるという期待感を持って彼の音楽を求めるようになった。もちろん、クリムゾンやザッパのように、
「うお〜っ、たまらん!」
 というような曲はないのだけれど、割とクセになる。

 トッド・ラングレンはタイプの異なる多くのアーティストのプロデュースを手がけてそれぞれ大成功を納めさせている人でもあるが、それも彼のマルチな音楽性あってこその成果であろう。しかし、彼の才能はその音楽的な懐の広さだけにとどまらない。様々な曲調により歌い分けるヴォーカルの実力も、これは相当なものだ。

 彼の声は一聴して癖がある。なんとなくひねた声だ。人間の性格は声に出ると私は思っているが、この人の場合、素直じゃない性格がそのまま表れた声に違いない。だが、それがなんとも言えず良い。この人は最近、割と社会派の歌を多く書くようになって、愛のバラードなんてのは少なくなったようだが、私が好むのはそういった社会派歌詞+ヘヴィーな音の曲である。どうもこの人はポップサイドに定評があるので、ポップスの王様みたいな言われ方もよくするけれど、彼のロックサイドは結構ヘヴィーで迫力がある。ポップサイドも詳しく見れば、普通のポップサイドとバラードサイド、それに面白サイドがある。ロックのヴォーカルは意外と迫力があり、なかなかの優れものだ。面白サイドではヨレヨレの爺さんのようなヘンテコな声を出す。ところがバラードを唄う時には、普段はひねた声のはずが伸びのある透き通った声になって、なんだかとても魅力的だ。性格的にはきっとザッパに近いものがあると勝手に思うのだが、それにしてはバラードの素敵さはなんとも不思議でしょうがない。どう考えても色恋沙汰に甘い夢を見るタイプではないはずなのだが、気が付けば女の子がうっとりするような歌をいっぱい唄っている。性格はどうあれ、自分の声がバラードに向いていて、甘い曲も書けて、それを唄えば女の子が喜んで、曲が売れて、レコード会社も喜ぶ、ということを知ってしまえば、当然の選択なのだろうか。きっとそうなんだろう。まあ、甘い夢は見なくとも、自分のバラードが素敵であるということに気付けば、唄っていて気分がいいということもあるだろうから、だんだん嫌いじゃなくなってくるものなのかも知れない。

 彼のライブ用のバンドとしてユートピアというものがあった。そのうち、よりロック色を強めて、ソロとは違った色合いの音楽をやる位置づけに変わって行ったバンドだが、そのライブビデオ(LD)を持っている。買った当時、クリムゾンなどを見慣れていた私には、なんとも迫力がなくてダサいライブに見えたけれど、それでもお客さんの熱中度は凄いものがある。最近は太ってがっちりした印象があり、顔もそれほど長くは見えなくなってしまったトッド・ラングレンだが(せっかくの長い顔なのに残念だと思っている)、若い頃の彼は顔だけでなく体つきも極めて縦長の人であり、たとえるなら、ナナフシがギターを抱えて唄っているようなものであった。しかしそれでもあの音楽と歌声のなせるわざなのか、ライブ映像を見れば、熱烈な女性ファンが少なくない様子である。

 最前列にそれなりに可愛らしい女性がいる。半ば泣き顔である。恋い焦がれ過ぎて、頭がどうかしちゃいそう、という表情だ。失神寸前の興奮状態で、
「トッド〜!アイ・ラブ・ユ〜!!!アイ・ラブ・ユー!!!」
 と叫び続けている。クリムゾンやザッパにあんな客はいない。愛のバラードが無いからだ。すばらしい愛のバラードを歌えば、女性は憧れてしまう。あんなに長い顔なのにアイラブユーと言われる。顔の長さは関係ないのだ。逆に顔が短くてもよいのだろう。もしも彼が“クシャおじさん”だったとしても、やはり女の子たちは涙を流して叫ぶに違いない。
「クシャおじさ〜ん!アイ・ラブ・ユー!!!!」

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