フランク・フリップ
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ザ・ザ 〜The The〜

 前回の“イエス”の中で少し触れたついでに“The The”を取り上げる。“定冠詞 定冠詞”あるいは“そのその”。ザ・ザの人気が日本でどのぐらいあるものか、そもそもどの程度の知名度なのか。この文章を喜んで読む人はそう多くないかも知れない。

 ザ・ザ≒マット・ジョンソンだと言える。ほとんどバンドの固定メンバーというものがない。音楽的には同じ事の繰り返しを潔しとせず、バンドの新陳代謝を続けることで、過去へ依存する安易性を排除しようとしているようだ。マット・ジョンソンという人は信念の人である。自分が音楽を通して世界に何ができるかをずっと考えてきた人だと思う。最近はアルバムが売れるかどうかなんてことはほとんど気にしていないようである。というわけで、『インフェクテッド / Infected』、『マインド・ボム / Mind Bomb』、『ダスク / Dusk』あたりの時代にあまり音楽を聴いてこなかった世代には、ザ・ザの存在はほとんど知られていないかもしれない。

 全く知らないアーティストのジャケット買いなど、私は基本的にはしないが、唯一、ザ・ザの『インフェクテッド』だけが、なんの予備知識も無しに、ただジャケットのみに惹かれて買ったCDである。1986年の発売直後だった。クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿 / In The Court Of The Crimson King』のジャケットにはかなり及ばないけれど、随分とインパクトがある。黄色い歯をむき出しにした口の周りを鼻水が取り巻いている男。顔の周りに自分の腕が巻き付いて、都会の街並みの中でぐるぐる回っているようなこの傷だらけの男は、社会の病原体に“Infected=感染した”姿を表現したものかも知れない。という見方はうがちすぎで、実は特に意味のない絵かも知れない。とにかく、たまたま店頭で見つけたこの見知らぬバンドの見知らぬCDを、どうにも我慢できなくなって買ってしまった。

 で、それ以来ひいきになった。その動向をリアルタイムで追っかける数少ないアーティストとなった。なんとなくあか抜けず泥臭いけれども、うわついていないその骨太さがよい。例によって女性ファンが多いとはとても思えないアーティストだが、決して自己満足で終わっているような聴き難い音づくりではない。

 アルバムごとに随分と色合いが違うが、それはジャケットにも表れていて、なんとなく音とジャケットのデザインがマッチしているように感じる。ジャケットというのはやはりアーティストのこだわりが表れるはずで、少なくとも自分が本気で取り組んで作ったアルバムに、いい加減なジャケットを使おうという気は起きないものだろう。もちろん、ジャケットを手がけるアーティスト側も、ろくでもない出来のアルバムに自分の精力をつぎ込んだ作品を提供しようとは思わないだろうから、ジャケット買いというのもあながちアテにならないものとは言い切れない。だが、貧乏人なので、そんなことは今後一生やらないかもしれない。もちろん、お金持ちになれば話は別。

 ところで、『ダスク』は実に良いアルバムだ。『マインド・ボム』も良いけれど、やはり最高傑作と言えるのは『ダスク』だろう。例によってこのアルバム関連のLDを勇んで買ったが、入っている曲は3曲。50分もあるのに、他は街の人に「世界の何がいけないのか?」などとインタビューしたりする内容。変なビデオだが、とてもザ・ザらしくて印象深い良いビデオだ。それから、『シェイズ・オブ・ブルー / Shades Of Blue』というミニアルバムがあるが、そこまでは手を出していないという人、これはいいです。4曲なので、すぐ聴き終わっちゃうけれど。どうか、ぜひ。

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