フランク・フリップ
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ジェスロ・タル 〜Jethro Tull〜

 ジェスロ・タルだ。しかしながら、ジェスロ・タルでいったいどれぐらいの人が喜ぶのだろうか。相互リンク先“ギャング・クリムゾン”主催者である津出井ツモ郎さんに、

「次回は誰がいいでしょうねえ」

 と問いかけてみたところ、ジェスロ・タルの名前が挙がった。本気の答えだったのかどうか今ひとつ分からないが、とても意外なところを突かれたのである。せっかくなのでお言葉のとおり、ジェスロ・タルを取り上げさせてもらった。津出井さん御自身は、イアン・アンダーソン以外のメンバーを御存知ないとのことだったが、それは私も同じである。ただ、『A』というアルバムではゲストとしてエディ・ジョブソンが大々的に参加していることは知っているし、このCDを持ってもいるが、あまり私のお気に召さなかったので、『A』は現在お蔵入りしている。

 そもそも『Jethro Tull』とはいかなる意味か。そこのところから調べてみよう。と、ものの本をながめてみると、山田道成氏の文章にて、こう書いてあった。

「18世紀の農学者の名前をとって、ジェスロ・タルと名のるようになったのである」

 なんだ、つまらん、人の名前であった。どうしてその人の名を取ったのかは書いていなかったが、急激に興味を失ったのでこれ以上は調べない。

 さて、前述のとおり、ジェスロ・タルと言えばイアン・アンダーソン。イエスのジョン・アンダーソンとともに、ロック界の2大アンダーソンである。そんなことを言われていたような気もするし、全然そんな話はなかったような気もするが、とにかく、勝手にそう言っている人たちも少なくはないはずである。しかし、2大アンダーソンと言えども、普通の日本人にはとても馴染みが薄い。それなのに、どういうわけか東京タワーの蝋人形館には彼の人形が置いてあるらしい。そればかりか、ロバート・フリップ、フランク・ザッパ、キース・エマーソン、ジミー・ペイジなど、この“フランク・フリップ”のコーナーで既に取り上げたようなアーティストもこの蝋人形館にはいっぱい置いてあるようだ。インターネットで調べてみれば、さらにマニアックなジャーマン・ロックの重鎮たちがズラリと並んでいる様子で、見に来たお客さんのほとんどが全くチンプンカンプンなまま素通りして行く光景が目に浮かぶ。似ていることが身上の蝋人形なのに、モデルになっている人物達の顔が全くといっていいほど知られていないのだから、サービス精神を二の次にしてまで自らの趣向に精力をかたむけるここの館長さんの心意気が伝わって来ようというものだ。しかし、残念ながら、かなりの出来損ないと言ってもいいような似てなさ加減ではあるらしい。ついでに書けば、お土産のコーナーにはジャーマンロックのCDが山積みだそうだが、東京見物をしているおじさんやおばさん達にとっては、まったく意味の分からない土産だろう。しかしながら、ここで一番驚いているのは、きっと観光でやってきたドイツ人達であろうと思う。

 イアン・アンダーソンと言えば、ロック界に初めて本格的にフルートを導入した人として有名なようだが、ギターやドラムなどと比べて、様になりにくいことを考慮してか、フルートの演奏時には片足を上げての『バランス奏法』を行ったりする。決めのポーズには手も挙げるので、イヤミの『シェー!』にもよく似ている(ちなみにイヤミとは上げる手が左右違うようだ)。片足でも微動だにしないすばらしいバランス感覚なのだが、よって、付いた異名が『狂気のフラミンゴ』だそうな。

 たいしてファンでもないのに、どういうワケかジェスロ・タルのライブLDを持っている。エディ・ジョブソンが参加しているライブだからというのが購入動機の一つではあったが、実のところ、噂に聞くイアン・アンダーソンの片足奏法を見てみたかったというのが大きい。この文章を書くために、何年か振りでこのLDを見たけれど、イアン・アンダーソンはなかなかやはりすごい男である。“狂気の”と言われるだけあって、ステージ上を変なテンションで走り回り、妙な踊り、大仰な表情で激しくうごめく。簡単に言えば、『ヒゲモジャの面白いおっちゃん』といった感じだが、おどけていてなんだかとてもいい人そうに見える。ロック・ミュージシャンでありながら、なぜか副業として養鯉業を営んだりする変わり種だということも、彼のパフォーマンスを見ているだけで何となく納得させられてしまう。格好良くはないが、なんとも言えず魅力的な人物である。

 ライブ映像とともに収録されていた、ちょっとくだけた作りのビデオクリップを見て、
「この人たちは色ものなの?」
 と、妻が半ば真面目に訊いてきたことからも明らかなように、“洗練”などという言葉からはかけ離れたところにいるイアン・アンダーソンであり、ジェスロ・タルである。だから、ジミー・ペイジやジェフ・ベックなんかに憧れてロック・ギタリストを目指すギター・キッズなんてのは珍しくない(なかった)けれど、イアン・アンダーソンに憧れてロック・フルーティストを目指すフルート・キッズなんてのは、やっぱりほとんど存在しないに違いない。

 さて、20枚以上出ていると言われるアルバム群の中で、私が聴いたのはたったの5枚だが、最初に買った『アクアラング / Aqualung』がなかなかの名盤で、今でも良く聴くお気に入りであるという以外は、『ジェラルドの汚れなき世界 / Thick As A Brick』がまあまあの出来で、たまには聴くかなという程度、『ウォーチャイルド / Warchild』には若干佳曲があるが、前述の『A』と『キャットフィッシュ・ライジング / Catfish Rising』はあまりのつまらなさに仕舞い込まれたままである。当然、はずれアルバムを2枚も聴いてしまった私は、これ以上買うまい、と決心した。たった5枚しか聴いていないのにこんな事を書くのは僭越だが、おそらく『アクアラング』はジェスロ・タルの最高傑作なんだろう。イアン・アンダーソンのヴォーカルもフルートの音色も、そしてそれぞれの楽曲も個性的で魅力に溢れている。とりあえずジェスロ・タルが気になっている人はこれ。でも、そのあと、他にも手を出すときはあまり期待しない方がいいかも知れない。わからないけど。

(2003/06/08 一部更新)
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