フランク・フリップ
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ハットフィールド・アンド・ザ・ノース
〜Hatfield And The North〜

 カンタベリー好きには絶対欠かせないバンドだが、世の中一般からはかなり欠かれてるハットフィールドだろう。といったところで、
「カンタベリーとはなんぞや?」
 と疑問をもたれる方も少なくないかも知れないので、多少説明しておこう。面倒だけど。

 カンタベリーはイギリス南東端、ロンドンの東、フランスと向かい合うドーバー海峡に接するドーバーのお隣にある土地で(相互リンク先の「ギャング・クリムゾン」に地図あり。こちらから【レコード・レヴュー】の[英国]というリンクを突っついて下さい)、このカンタベリーを拠点としてはじまった音楽シーンをカンタベリー・ロックなどと称する。ソフト・マシーン、キャラバンらに並んで、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースもカンタベリー系の代表的バンドだと言えるだろう。カンタベリー・ロックの最大の特徴はジャズ色が強いことで、いわゆるジャズ・ロックと称されることもあるが、それだけではなくてなんだか独特の香りがある。言葉で説明するのはなんとも難しいので聴いてもらうのが一番だが、とにかく、
「ああ、カンタベリーだなあ」
 というもんである。プログレの一ジャンルとしてくくられることも多いが、クラシカルな要素の強い、ややもすると大仰と言われがちなタイプのプログレッシヴ・ロックとは一線を画する。ある意味地味目の音楽で、興行的にはあまり実りの無いタイプの音楽とも言える。

 ハットフィールドのメンバーは、カンタベリー系ミュージシャンとしては有名どころがそろっていて、リチャード・シンクレア、フィル・ミラー、ピップ・パイル、デイヴ・スチュワート(ユーリズミックスのおじさんはこの人とは同名異人)というそうそうたる4人が集まったからには、カンタベリーの世界においてはスーパーグループみたいなものだろう。が、ロック界全体からすると取るに足らないバンドという扱いなのは間違いがない。残念ながら。ちなみにデイヴ・スチュワートは実はこのバンドにおける3代目のキーボーディストだったそうだが、前任の2人はアルバムには関わってないので、実質的にはオリジナル・メンバーのように扱われる。

 '90年代になってから復活ライブのようなことをやって、ちょっとしたライブ・アルバムを出しているが、それを除けば彼らの残したアルバムはわずかに2枚しかない。それでいて、一部のファンに熱狂的に支持され続けている理由はなにかと考えるに、知的で洗練され、複雑でかつ優しげといった要素がうまく溶け合っていて、要するに出来が良いので、
「これっきりでお終いとは残念すぎる」
 という思いを持ち続けているファンが多いのかと思う。といってもファンの絶対数は少ないので、そんな思いを持ち続けているファンは世の中から見るとやっぱり少ないとも言えるけど。

 ハットフィールドの楽曲は4人がそれぞれ書いていて、それでいて曲の雰囲気にはアルバムを通して一貫性が感じられるから、お互いの関係、バンドのまとまりは随分良かったのだろうと思う。ハットフィールドの醸し出す優しい雰囲気作りに最も貢献しているのはもちろんリチャード・シンクレアの甘いヴォーカルだろうが、彼のインタビューを読んでみれば、バンドの音楽に最も貢献しているのは意外にもピップ・パイルだろうと言う。“UKプログレッシヴ・ロックの70年代 VOLUME2”(青林堂)という本に収録されているこのインタビューの中で、リチャード・シンクレアは他にも意外なことを言っているが、曰く、
「(観客にとって複雑すぎたと思われるバンドの音楽も)本当はそんなには複雑じゃなかった」
 とか、
「(ハットフィールドを離れた理由は)色々なことをやりたかったということ」
 だとか。どうやら巷で良く言われているように音楽的意見の相違や、仲たがいが原因ということはなかったようだ。ただ、金銭的にあまりに恵まれなかったので、という面は強いらしい。そうはいっても、カンタベリー系ミュージシャンの行くところ、カンタベリー・ミュージックをやっている限りは貧乏がついて回る。いくら衣替えしてみたところで、あまり浮かばれる人達ではないのだ。

 2枚のアルバムのうち、ラスト・アルバムとなったセカンド・アルバム『ロッターズ・クラブ / The Rotters' Club』は、彼らの最高傑作(といっても2枚のうちの1枚だから、残りの1枚は相対的には最低の駄作ってなことになるのか)であるばかりか、カンタベリー・ミュージックにおける最高傑作であり、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースをカンタベリー・ミュージック・シーンの頂点に立たしめた作品だとまで褒め称える人たちがいる。それは各人の見方だから、もちろんそうだと言い切れることではないが、確かにやや雑然とした感じのファーストに比べると、非常にしっかりまとまっていて、2枚目において早くもこのバンドは完成してしまったという感もある。とすれば、リチャード・シンクレアが抜けて、それをきっかけにバンドが解散してしまったという道筋も必然的な運命だったのかも知れない。

 世の中、実力があって、オリジナリティがあって、優良であるものが必ずしも人気を博すわけではない。というよりも、人気を博すためには洗練されすぎていたり、高度過ぎては基本的にダメみたいだから、もしもあなたが人気絶頂だったら、
「ああ、自分には本当の実力がないんだなあ」
 と、謙虚になりましょう。もしも人気を博すために計算ずくで程度を落としているのなら、
「ああ、自分は己を欺いているんだなあ」
 と、ちょっとは恥を知りましょう。

 といった変なまとめで終わることになったハットフィールドだが、実は私、このバンドがそんなに好きってわけでもない。

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