フランク・フリップ
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エマーソン・レイク&パーマー 〜Emerson,Lake&Palmer〜

 ELPである。正しい略し方はEL&Pかも知れないが、面倒なのでELPと書く。ELOではない。ましてやELTなんかと間違えたらとんでもない。キース・エマーソン、グレッグ・レイク、カール・パーマー(最初にこの人のフルネームを知ったときには、理髪業界の回し者みたいだと思った)の3人からなるプログレの大御所だが、昔はアイドル的存在でもあったらしい。確かに若い頃の彼らはみんななかなか格好良い。かわいそうだがソフト・マシーンなんかとは随分と違うのである。だから、プログレバンドにしては女性のファンが多かったようだ。知ってる人も多いだろうが、青池保子氏の漫画『イブの息子たち』の主人公達のモデルにもなっているぐらいだ。しかし、今となっては見る影もない。

 音のことを言えば、カンサスなんかとはちょっとレベルが違うんだが、このバンドも割とダサいんである。ダサいという件については、私が大学生の時のこんなエピソードがある。

 設計製図の課題(私は建築学科の出なので)でモニュメントを設計することになった。ちょうどその時期、ドラマーのカール・パーマーの代わりにコージー・パウエルが参加して、エマーソン・レイク&パウエルという、人をおちょくったような名のバンドでELPが3分の2程復活したところだったので、テーマに何も思いつかなかった私は、勢いで『ELP復活記念塔群』というものを設計して提出した。このモニュメントは、円錐形に近いガラスの塔が3つ一列に並んで建っているだけのものなのだが、一つだけがやや太く、根本の方がくびれたデザインになっている。この太くてくびれた一本はグレッグ・レイクを象徴している。彼が余りに太ってしまったために、結婚指輪が指の肉に埋もれて抜けなくなったというエピソード(ホントかどうか定かではないが)に基づいている。

 締め切りの翌日、学生全員を集めて講評が行われる。それぞれの作品について教官がいろいろとコメントをするのである。ひどい教官になると、学生のプライドをずたずたにするようなことを平気で言ったりする。そんなのはみんなに嫌われちゃうわけだが、それは全然関係のない話。この講評会で、私が自分のいい加減な作品について説明をするとき、ほとんどみんな知らないだろうと思いながら、

「えー、ELPというイギリスのロックバンドがありまして、あまり皆さん知らないと思いますが…」

 と言うと、すかさず、
「知ってるよおー」
 という複数の声が返ってきた。

「あ、知ってる人もいますかね。えー、このELPというバンドは、まあ、ちょっとダサいと言えばダサいんですが…」

 と私が設計とは全然関係のない話を続けると、
「ああ、ダサいな、確かに」
「うん、ダサい、ダサい」
 という力強い合の手が入った。

 というわけで、ELPは一般的に誰もがダサいと認める部分を持っているのだということを認識した一件であった。だが、ダサいとは言っても、彼らの才能は実にたいしたものなのである。エマーソン、レイク&パーマーの順で。

 ところで、エマーソン・レイク&パウエルについてついでに書いておくと、本当はこのバンドのことをELPと言ってはいけない。このとき参加しなかったカール・パーマーが、「このバンドのことをELPと呼んではいけない」と、いちゃもんを付けたから、ELPと略して良いのはオリジナルのエマーソン・レイク&パーマーだけということになった。でも略さないのも面倒なので、私はその話を知って以降はこのバンドを『ELパウエル』と呼ぶことにした。“エル”がふたつで語呂がよい。

 それから、もうひとつついでに書く。ELPの代表作である『恐怖の頭脳改革 / Brain Salad Surgery』のジャケットを手がけた、映画『エイリアン』のデザインでもおなじみのアーティスト、H.R.ギーガーの『BIOMECHANICS』という画集を持っている。その本に1986年にELパウエルからジャケットの制作を依頼されたとして、制作した11案のうちのほとんどが掲載されているが、結局ELパウエル側のマネージャー交代後、それらの案は黙殺され、一切支払いもなかったと憎々しげに書いてある。これを見ると、絵の中にELPという文字が描かれているものもあり、結局、ELパウエルは新グループの結成であり、ELPの復活ではないということになった建前上、ギーガーの絵を採用することは見送られたのかとも思われる(その後、ホントのELP復活後、『ゼン・アンド・ナウ / Then & Now』というアルバムのジャケットにこのうちの一枚が使われたようだ)。というわけで、ELパウエルのジャケットは世にも情けないぺらぺらイラストに代わった。そして中味の方も世の中にはほとんど無視されてしまった。私は結構評価しているのだけれど。少なくとも『ブラック・ムーン / Black Moon』なんかよりはよっぽど良いと思う。

 この本当のELP再結成作、『ブラック・ムーン』は、期待していなかったとおり、たいした出来ではない。なんといっても本人達が乗り気じゃないのだから。エマーソン自身は、成り行き上やっている、みたいなことをはっきり言ってしまっているぐらいだ。だが、ライブは期待していなかった割にはとても楽しめた。演奏が素晴らしかったからという理由ではない。とにかくこれがELPの楽しさなのだとでも言うしかない。エマーソンはお決まりのオルガン倒しやら鍵盤にナイフ突き立てをやってくれるし、パーマーのドラムソロも昔(のビデオ)と同じ調子だった(上半身裸になったかどうかはよく覚えていない)。レイクの『ラッキー・マン / Lucky Man』はやっぱり良いし、『四部作 / Works Volume I』の『海賊 / Pirates』が長過ぎてだんだん飽きて来るところも決まり事みたいで説得力がある。やはりなんと言ってもエマーソンはエンターテイナーであった。客を喜ばせることを第一に考えていると言うだけのことはある。たとえ、グレッグ・レイクのことが大嫌いでも、仕方なくバンドを続けているとしても、いざライブとなれば客と共に楽しんでいるというのがよく伝わって来た。

 彼らがいかに客を楽しませようとしているか、と言うか、自分たちが好きなだけという気もするが、それをよく表しているのが、伝説のエマーソンの回転ピアノだ。普通はあんな事をやろうとは思わないだろう。ステージ上でグランドピアノが回転する。エマーソンが弾きながら一緒に回転している。話を聞いただけではよくある演出と思う人も多いかもしれない。ELPの正体を知らない人達はそう思って当然だ。だが、まさか演奏者もろとも浮き上がったピアノが前に回転を始めるとは誰も想像するまい。またこの回転速度が意外と速い。あれで普通に演奏するというのは、やはりさすがの名人エマーソンだ。残念ながら私の見た再結成ライブではやらなかったが、その映像を収めたLDは持っている。抱腹絶倒なのだ。いったい何を考えているのやら、である。


(2002/05/11 一部更新)
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