フランク・フリップ
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キング・クリムゾン 〜King Crimson〜 その3

 『THE ELEMENTS OF KING CRIMSON TOUR in JAPAN 2015』に行ってきた。inだけが小文字。OFも小文字じゃないの? とも思うけど、まあ、わからなくはない。

 先に申し上げる。スゲー。モノスゲー。たまらなく良かった。生きてて良かった。そんな感じです。

 「前回の来日公演」から12年も経っちゃってる。向こうの方で2008年に新メンバーでのあまり出来の良くないライブ(私はネット配信で買った)をやったものの、それっきり活動しないまま、フリップ先生が「ツアーもうやんない宣言」をしたようだし、ブラッフォードもライブ引退しちゃったし、クリムゾンはもうお終いだあ、と思ってたら、なんだかんだで復活。でも、そこまで期待していなかった。

 2011年に出した『A King Crimson Projekct』なるバンドというかプロジェクト名義のアルバムは、メンバーこそクリムゾンっぽいけど、中身はこれ以上ないってぐらいつまんなくて、「これが新たなキング・クリムゾンのプロトタイプか!?」なんて調子で言われると、やめてくれよーと思っていた。言っちゃなんだが、ジャクスジクさんの書く曲に魅力がなさ過ぎて。これが母体なら、史上最低につまらないクリムゾンになっちゃう、と思っていた。で、結局、あれが母体になっちゃった。

 そんな、きっと“最後の”新生クリムゾンが今年出したライブアルバム『Live At The Orpheum』はなんとも微妙な感じで、まだ演奏がこなれてないのかなあというか、トリプルドラムの効果がいまひとつ感じられないような、久々のメル・コリンズさんがうまくはまってないなあ、とかいった印象を持ったわけで、正直あまりワクワクしない出来と思えた。

 でも、そんなクリムゾンが12月にやって来る! ってんで、こりゃ、新譜を引っさげてくるのかな、という期待と共にやっぱり当たり前のように行くことにするわけだが、値段を聞いてびっくり。15,000円。いままでのリーズナブルなクリムゾン価格からすると、
「いったいなにがあった!」
 と、フリップ先生の肩を激しく揺さぶりたくなるような高騰具合だ。そりゃねえ、ファンは高齢化してるから、それなりのお給料をもらってる年代が多いかも知れないし、クリムゾンのメンバーは歴代最多の7人だし、円安だし、「よし、高くしちゃえ! ふんだくっちゃえ!」と、どっかの誰かに魔が差しちゃったのもわからなくはない。でも、高過ぎですよ、先生。私も独立してまだまだ収入が上がってこないところだし、こりゃもう、行くのやめた。とは、悲しいかな、やっぱり言えない。生クリムゾンはこれが最後かも知れないし、少なくとも再度の機会は極めて限られているに違いないのだ。先行予約の手数料やらチケットの送料やらでさらに1,000円以上上乗せの、もはやボッタクリ(あえて言う)価格だけれど、行かないわけに行くであろうか。いや、行かない。だから、行く。本当は2回ぐらい行きたかったけど、1回で我慢。後で知ったが、日によって演奏曲、演奏順も結構違っていて、1回しか行かなかったことが実に悔しい。

 結局今回のキング・クリムゾンは新譜を引っさげずに来日し、あのフリップ先生ともあろうお方が、夢とも思える懐メロ大会をやって下さることになったのだ。もっとも、何十年も飽きずに聴き続けている私にとっては懐メロではないけれど。というわけで、2015年12月9日(水)、私の苦手な街、渋谷へ行った。クリムゾンといえば、いままで大抵は新宿の厚生年金会館がお定まりの会場だったが、ここはもうなくなっちゃたし、プログレ関連では渋谷公会堂でもよくライブを見たもんだが、こちらも建て替えのため閉館しちゃったというわけで、渋谷Bunkamuraにあるオーチャードホールが会場となった。

 それにしてもこの渋谷という街、なんでこんなに人が多いのか。この日は午後に工事中の現場へ行って(2年半前から設計事務所をやっているので)、家へ帰るには半端過ぎる時間だし、そうだ、現場の隣駅の友人が水曜日休みだから、お茶に付き合ってもらって時間潰そう! (この辺の自由が一人で仕事をしている幸せなところ)と、身勝手なプランを立てて3時間ほど友人とお茶していたら、話し込んで店を出るのが遅くなった。あわてて渋谷へ向かったが、頑張っても開演時刻ピッタリぐらいにしか着けない。渋谷駅を出てから会場まで急ごうと思ったら、なんじゃこの人の山は! 歩道を埋め尽くし、のたりのたりと歩く人々。追い抜きチャンス! と思えば向こうから人が来るし、抜くに抜けない、早足にもなれない、それどころか普通の速度でも歩けない。

 会場へ近づくと人も一気に減って、見れば明らかにクリムゾン客と思われる同年代ぐらいの男どもが数人、早足で会場を目指している。今頃入場する客はもはやチラホラで、こりゃ急がんといかんと焦りながらも、途中退席は最悪なのでトイレへ寄る。もう7時をまわったが、そうそう定時にも始まるまいと高をくくってホールに入ると、やっぱりまだ開演前でホッとした。

 オーチャードホールには初めて行ったが、綺麗だ。コンサート・オペラ・バレエ用のホールってことで、音響も素晴らしかったんだろう、多分。席を探すと、思いの外後ろだ。なんだこれ、先行で買ってもこの位置ならば、どうすりゃあの前の方へ座れるのだ! コネか。関係者じゃないといかんのか。それともこれは公正な抽選の哀れな結果なのか。と不満を抱えてもしょうがない。私の列で空いているのは既に自分の席のみ。なんにしても間に合って良かった。ホールの後ろの方なので、床の傾斜がやや急で、前のお客さん方の頭が良く見渡せる。うーん、会場全体の髪の毛の本数が少なめですな。すっかり白い方、地肌的な方がいっぱい。あれは内田裕也か! と見紛う方もいらっしゃった。平日なのでスーツ姿の男性も多い。いつもの如く、女性は圧倒的に少なくて、全体の5%かそんなにもいないかってぐらい。

 開演予定時刻を10分過ぎた頃か、女性の声で注意事項がアナウンスされた。撮影、録音は一切ダメ。途中退席した場合、曲間でのみ再入場可能。ただし、演奏後、トニー・レヴィンがカメラを取り出したら自由に撮影してもOKとのこと。その粋な計らいに会場が盛り上がった。そして続いて男性の英語のアナウンス。とってもフリップ先生に似てる声。と思ったらやっぱりご本人だったらしい。同じ注意事項を自ら説明していた模様。最後には
「以上を守ってキング・クリムゾンとパーティしましょう」
 と言ってたようだが(少なくとも前日にはそう言ってたと、どっかのライブレポートに書いてあった)、私は英語力がアレなので適当に聞いてたけど、そんな感じだった気はする。うむ、多分。

 で、客席が暗くなっていよいよメンバーの登場。皆さん、ネクタイ締めたスーツ姿。ほとんどがスリーピースで、なんともカッコイイ。特にトニー・レヴィンなんて、スラッと背が高いジェントルマンだし、あんまり見たことのないスリーピース姿が実にキマッてるなあと感心する。しかし、始まる前から会場は暑いのに、上着はさすがに大変だろうと思ったら、演奏中はシャツかベスト姿だった。前列にトリプルドラム、左からパット・マステロット、ビル・リーフリン、ギャヴィン・ハリスン、後列の壇上に、左からメル・コリンズ、トニー・レヴィン、ジャッコ・ジャクスジク、ロバート・フリップ御大という並び。ステージ上はかつてのようにほとんど暗闇ということはなく、結構明るくて見やすい。しかし、肝心のフリップ先生とその前のハリスンさんの姿が、前列のお兄さんの頭のせいでほとんど隠れちゃって悲しい。こういうこともあるから、2日ぐらい見ておきたかったんだよなあ。う〜。

 さて、ついに演奏の始まり。お定まりのインプロのSEみたいなもんがしばらくあって、その最後にはライブアルバム同様、アルバム『アイランド / Islands』の最後に収録されていたオーケストラのリハ音とフリップ先生によるカウントが流れ、そして1曲目『Peace - An End』が始まった。最初だから『- A Biginning』の方かと思ったら、前日が『- An End』の方だって言うんだから、きっとこの日もそうだったんだろうと思う。歌詞をよく聴いていなかったし、そもそもどっちがどういう歌詞だったかもよく覚えてないのでわからない。英語力もアレだし。

 ジャクスジクさんの歌声はクリアで良く通るし、決してヘタじゃないんだけど、どうにも軽い。残念ながら重厚感と個性と魅力に欠ける。ルックス的にもキャラ的にもそう。総合的に存在感が足りないんだなあ。ジャクスジクさんのボーカルを歴代のクリムゾンのメンバーと比較すれば、今は亡きボズさんに一番近いのかなと思った。性格的にはまるで違いそうだけど。好き嫌いがあるのでなんとも言えないけど、前任者のブリューさんには良しも悪しくも存在感があったし、ボーカルにもギターにも個性があった。でも、ブリューさんのままだったらこの懐メロ大会はなかったんだろうなあと思う。ブリューさんじゃ、昔の曲とイメージが違い過ぎちゃうから。さらには、ジャクスジクさんで行けるなら、かつて破談となったデヴィッド・シルビアンのリードボーカルってのも割とおかしくなかったのかな、なんてことも思った。でもやっぱり理想は若き日のグレッグ・レイク。いかに性格が悪かろうが、音程がフラットしようが、あの帝王ボイスの魅力は揺るがない。とは言っても、もはや昔の輝きはないし、今さらフリップ先生と一緒に仕事なんてやっぱり不可能なんだろうし。ここはジャクスジクさんの奮起と我々の耳の慣れに期待するしかないか。

 続いては『Pictures Of A City』。『Peace』が『- An End』じゃなくて『- A Biginning』だったら完全にセカンドアルバムの『ポセイドンのめざめ / In The Wake Of Poseidon』の流れなんだが、どっちにしろどっちだかわかんなかったので、これはほとんど素直な展開。前日はこの曲はやらず、ここに通称“21バカ”こと『21st Centruy Schizoid Man』を持ってきたっていうんだから、いくらなんでも早すぎるでしょう。それじゃまるでスープを一口すすっただけでメインディッシュの高級和牛ステーキをいきなり食いきっちゃうような感じというか、五目焼きそばのタケノコを一かけ口に入れた直後にウズラの卵を食っちゃうような感じというか、ガリをちょびっと口にした後で大トロを食っちゃうような感じというか、とにかくもったいない。ここはなんとも微妙な『Pictures Of A City』ぐらいが絶妙にちょうどいい。はっきり言って、クリムゾンの曲中では割とどうでもいい曲なんだが(個人の感想です)、しかし、どうでもいいと思っていたのに、こりゃスゲエ、といきなり感じ入ってしまった。
「なんたるド迫力か。なんていい音出すんでしょう、この人たちは! ああスゲー!」
 と、今まで軽視していた曲でさえこの出来だってところが、この先への期待感を尋常じゃなく膨らませてくれた。

 で、次はアレですよ、『Epitaph』。来ましたねえ。まあ、ボーカルがイマイチ重厚感を欠いてアレなんだが、でもいい。ここまで生クリムゾンでは体験したことのない曲だらけなんだから、多少のアレは気にしない。ここで、トリプルドラムの真ん中、白髪というのか銀髪というのか、良く知らない方なんだけどやたらクールでダンディ風情なリーフリンさんが、メロトロン風味のキーボード担当ということが判明した。ドラマーがキーボード兼任というのはなかなか珍しくて楽しい。キーボードを弾くときは横顔を見せてくれる。ある意味、ドラマーとしての横顔でもある。ちなみに、今回はフリップ先生もおそらく数十年ぶりのメロトロン風キーボード兼任だった。どの曲だったかは忘れたが、数曲でフリップ先生のキーボード演奏姿が(片目で)見られた。嬉しい。

 エピタフが終わると、聞き馴染みはある音だが聞き覚えはない旋律と歌の曲。まさに“ヌオヴォ・メタル”の新曲っぽい。それが延々とかなり長く続く。
「これ、新曲だよな、たぶん。いや、でも最近の楽曲のアレンジ違いかも。いや、でもこんだけ長いこと聞き馴染みがないメロが続くってことは、やっぱり新曲だろこれ」
 などと自問自答しながら聴いていたら、そのうち『Level Five』へと繋がった。参考にさせて頂いたライブレポートによれば、やっぱり新曲らしいが(それも3曲のメドレー)、ここの一連の流れは実にパワフルで格好良く、この調子の新曲が並ぶんだったら、と新たなアルバムへの期待が大きく高まった。

 このあたりからの曲順はよく覚えてないんだが、おそらく、つまんなくて短い新曲を2曲ぐらい挟みながら、『The Letters』、『Easy Money』、『Red』、『Larks' Tongues In Aspic Part II』をやった。『Live At The Orpheum』にも収録され、前日にもやったらしい『Sailor's Tale』と『One More Red Nightmare』がなかったのは極めて残念だった。特に、オリジナルどおりのメル・コリンズさんのサックスがあって、トリプルドラムでパワーアップされた『Sailor's Tale』は是非聴きたかった。フリップ先生のああいう激しいギターも意外と少ないし。でも、代わりに私が世の中で最も格好良い曲だと思っている『Red』をやってくれたのは嬉しい。まあ『Red』はいつの来日時もやってくれているので、珍しいわけじゃないけど。同じく『Larks' Tongues In Aspic Part II』もよくやってくれているが、こちらも何度聞いてもゾッとするほど格好良くて、その迫力に痺れる。肝心の部分でフリップ先生が珍しく音を外しちゃった気がしたけど。もう一つ、やっぱり前日にはやったという『The ConstruKction Of Light』もなかった気がするが(もしかしたらやったかも。よく覚えていない)、まあこれは何度か聴いているので、どっちゃでもいいっちゃいい。

 で、本編の最後は『In The Court Of The Crimson King』から『21st Century Schizoid Man』。オリジナルの”21バカ”だと、途中ですんばらしいギターソロとサックスのソロが入るけど、期待していた先生のギターソロはなくて、コリンズさんのサックスソロからハリスンさんのドラムソロへと流れていった。このハリスンさんのドラムソロが実に素晴らしくて(前列の男性の頭で見づらかったけど)、その演奏をちょうど後ろの壇上から手を止めて眺めているフリップ先生の表情が、
「うんうん、実にいいドラマーを雇ったもんだ」
と語っているように柔らかく見えた。トリプルドラムだから、さらにドラムソロが続いて行くんだろうと思って、リーフリンさんがこれを超え、マステロットさんがさらに上を行くパフォーマンスをしなきゃならないのはどんだけ大変なプレッシャーだろうと少し心配して見ていたら、マステロットさんがハリスンさんに拍手を送っただけでソロは終わってしまった。

 昨今で言うところの“スキッツォイド・マン”が終わると、客席が明るくなって、皆さん、スタンディング・オベーションっていうやつの嵐。私も立ち上がって、感動に震えると共に、もう本編終わりかあ、という悲しさを込めて拍手を続けた。すると、お約束どおりレヴィンさんがカメラを持ち出して撮影タイムをアピールした。お客さんたちはあわててスマホを取り出すと、一斉に撮影を始める。私も何枚か撮ったけど、ズームも出来ずに悲しい小ささ。舞台より、お客さんたちの○○頭のほうが目立つ写真になった。こうと知っていれば、事前にズームできるカメラアプリをインストールしておくんだった。でもまあアイドルでもないし、皆さんのシワの増えた顔のアップがなくても、記念としては良いかも知れない。

 さて、アンコール。客層も高齢だし、そうでなくともクリムゾン客なので、演奏が始まればまた皆さん着席するのが良いところ。デヴィッド・ボウイのライブみたいに、最初っから最後まで立ちっぱなし、なんて恐ろしいことは決して起こらない。『B'Boom』なのか『Conundrum』なのかわからないけど、そんなようなトリプルドラムのパフォーマンスがあって、そしてオーラスの『Starless』へ。90年代前半、クリムゾンが休止状態の時に出たフリップ先生のソロLDの中で、身振りを交えて『Starless』の一節を口ずさみつつ、
「またやりたい」
 と語っていた先生。なのにその後、クリムゾンを復活させても決してやってくれなかったこの曲を、ついに生で聴くことができた。ああ、美しきかな。

 全ての演奏が終わり、万雷の拍手の中、次々とメンバーが舞台袖へと去って行くが、フリップ先生だけは最後までステージ上へ残り、観客へ向けて丁寧にお辞儀をしてくれた。気難しいとか偏屈とか定評のあった先生も、ついに好々爺と化したのかも知れない。

 結局、ディシプリン期からはなにもやらなかったけど、あれはやっぱりブリューとブラッフォードがいないとうまくないし、特にファンの方でもほとんど望んではいなかっただろうから、それは問題ない。その代わりってワケじゃないだろうが、レヴィンさんのベースが相変わらず『Three Of A Perfect Pair』印の黄色いベースだったから、なんだかとても嬉しかった。ちなみに、日によっては『Larks' Tongues In Aspic Part I』をやることもあるってんだから、新しいアレンジの『太陽と旋律パートI』を聴きたかったなあ。そこら辺の、生で聴けなかった曲も網羅して、今回のツアーを是非とも映像作品としてリリースして欲しい。お願い。そして、これで懐メロ大会で皆さんも喜んでくれたことだし、バンドとしての肩慣らしも終わったってことで、いよいよ最高の新作を出して下さいな。

 いやあ、今回の演奏には観客たちもこぞって脱毛、もとい、脱帽です。ほんとにほんとに素晴らしかった。生きてて良かった。

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