フランク・フリップ
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デヴィッド・ボウイ 〜David Bowie〜 その2

 ライブ報告である。2004年3月9日、日本武道館。『DAVID BOWIE A REALITY TOUR』東京公演最終日、といっても二日目だ。九段下の地下鉄の駅から地上に出てみると、

“チケット譲って下さい”

 と書いた紙を持って待ちかまえている人達が何人もいた。東京大阪で計3公演しかやらないようだから、需要を満たし切れていないのかも知れない。でもダフ屋のオッチャンたちは「券あるよ〜」と言っていたから、結局はそこから買っちゃったのかな、あの人達。

 私はボウイの昔からのファンというわけではない。最初に聴いたアルバムは『レッツ・ダンス / Let's Dance』だった。大ヒット作で、当時のディスコ・ブームと相まって、OLさん達あたりに新たなファン層を拡げたとかいう作品だが、私が最初に聴くべきアルバムではなかった。

「いまいちだなあ」

 ということで、それ以上デヴィッド・ボウイに手を出す事はなくなってしまった。そのしばらく後、ティン・マシーン以降のアルバムから結局は本格的に聴き始める事になったのだが、それら近作は、昔のアルバムに比べるとやや骨太の印象で、女性よりも男性が好む音だろうと思っていたから、会場に着いてみて、その女性客の多さに驚いた。見た感じ、男女比率はちょうど半々といったところである。私の今までの数少ないライブ体験の中で最も女性客の多いコンサートとなった。

 席はスタンドの2階で、それほど前ではないが、ほぼ正面なのでまあ良しとしよう。それにしても武道館の椅子は小さくて硬くて背もたれも腰までしかなくて、要するに最悪である。30分で辛くなった。言うなれば野球場の客席みたいなレベルだが、そもそもが武道館なので、スポーツ観戦用仕様はこんなもん、ということなのか。

 開演予定は午後7時だが、いつのまにやら前座が付いていた。グルーヴ・シンジケートというバンドだったが、そのバンドの正体をその日の私はまだ知らなかった。おそらくお客さんのほとんども知らなかったろうと思う。7時ちょい前に出てきた彼らはどうやら3人組のようだ。シンジケート=黒ずくめという割と単純な発想なのだろう、その衣裳はさながらMIBの如しである。遠目なのではっきりとはわからないが、おそらく若いバンドなのだと思われる。デヴィッド・ボウイの前座でしかもいきなり武道館とは、彼らにとってはとんでもないチャンスであって、さぞかし興奮している事だろうなあなどと思いながら見ていた。多くの客は前座の存在など望んでいないに違いなく、変な音楽でも始めてしまっては客の視線も冷たかろうから、実に大変な立場でもある。

 ステージの真ん中にデンと立ったのがベーシスト。背後にキーボードの2人。打ち込み系のハウスというかテクノというかディスコ調で且つかなりハードな音楽が始まった。歌はない。ちょっと変わっていてなかなか迫力のある面白いバンドだなあと思ったが、よくよく聴いていると、曲の中身は割と単調で、ちょっとセンスがズンドコ系。言うなれば、今風のベンチャーズといったところか。悪くはないんだが、聴いてるとすぐに飽きてしまいそうでやや深みに欠ける印象ではある。20分きっちり演奏したところでスパッと帰って行った。結構好評で、演奏後のお客さんの歓声もそこそこ大きかった。

 後日、インターネットでグルーヴ・シンジケートのことを調べてみれば、若いバンドどころの話ではない。元BOOWYのベーシスト、松井常松さんのソロ・プロジェクトとある。真ん中でベースを弾いていたのがこの方らしい。実はこのバンド、あの布袋寅泰さんプロデュースで、彼もメンバーの一員であるようだ。結構な大物バンドだった。ネットで試聴してみればちゃんとギターがギュインギュインと鳴っていて、こないだのライブの感じとは大分違う。どうしてこないだ布袋さんがいなかったのかは不明。後ろでキーボードなど弾いていた方たちもなかなかの実力者らしい。ちょっと興味を持った。

 さて、前座の話はこのぐらいにして、本題のデヴィッド・ボウイだ。第二部として始まったのが7時50分。随分遅くなった。これだと終わるのが10時過ぎだろう。早めに松屋でヘルシーチキンカレーセット(390円)を食べてきて正解だ。

 スクリーンに映し出されたメンバーの演奏姿のアニメーションと共に音だけが流れてくる。そのアニメがだんだんと実写に変わってきて、ついにデヴィッド・ボウイが現れた。ほとんどの観客が立ち上がる。私の前の方々も立ち上がったので私も仕方なく立ち上がった。結局2時間半立ちっぱなし。ふくらはぎが痛くなったが、硬い椅子なので座っているよりかえって楽だったかも知れないから、それほど不満はない。そんなことよりも、だ。

 凄い。私はデヴィッド・ボウイの実力を信頼しているし、ファンでもあるが、クリムゾンやザッパに比べると熱意はやや落ちる。今回のライブも行こうか行くまいか多少迷ったぐらいだ。が、来て良かったと初っ端に思った。彼がステージに現れた途端、空気が一変した。大スターというものはこれ程のパワーを持っているものかと驚嘆した。ありがちに言うと、もの凄いオーラを発している。彼の存在自体が楽しいし嬉しいという、ここまで強烈な感覚は、フリップやピーガブやエマーソンやアンダーソン(ジョンでもイアンでもどちらでもよい)がどんなに頑張っても、もしくは全員が合わさってさえもおそらく沸き起こってこないものだ。たとえザッパであっても彼には太刀打ちできないかなと思った。間違いなく世界に数人といない特別な存在であると感じた。

 ライブの素直な感想を言えば、かつてなく楽しかった。残念ながら、クリムゾンより楽しい。ボウイの音楽は、実に名曲揃いだと改めて思った。ごく初期の曲についてはあまり多くを私は把握していないが、あのころのシンプルで弾き語り的な、ロマンと哀しみをはらんだ音楽は確かに男性よりも女性が好むだろう。そう言えば昔はグラムロックという範疇にくくられていたわけで、女性客が多いのも当然である。しかし彼の音楽の魅力はもちろんそれだけではない。特に最近の曲にはシャープでハードでタイトな優れたロックも少なくないし、もちろんバラード調の曲においてもその完成度は昔に比較して劣るものではないから、よくあるベテランアーティストのライブのように、昔の曲と今の曲とで盛り上がり方が極端に違うということもない。

 ボウイの曲は楽しい。アルバムを聴いているだけだとそれほど良い曲と思っていなかったものでも、良いバンドの生演奏で聴かされると、魅力が2倍増しになる。どんなスタイルの曲でも変幻自在に歌いこなしてしまうボウイの歌唱力の素晴らしさも今回改めて認識しなおしたところである。既に57歳だというが、その声には全く衰えがない。実に素晴らしい。天下の名曲『ヒーローズ』など、出だしのアレンジが違っていたのでしばらく知らない曲だと思って聴いていたが、あのボーカルによって歌い上げられた感動は、エイドリアン・ブリューが歌ってしまったクリムゾン版の『ヒーローズ』とは、たとえフリップの本物ギターのぶんをプラスに評価したところで、やはり全く比較にならない。楽曲の素晴らしさ、バンドの演奏の完成度、ボーカルの説得力、それだけではなく、デヴィッド・ボウイの存在そのものによるエネルギーの発露が一緒くたになってあの感動をもたらしているに違いない。

 バンドの出来は非常に良かった。昔ながらのマイク・ガースンまで参加して、お馴染みの独特のピアノを聴かせてくれたりもした。でも実は私は以前からあのピアノにはちょっと違和感がある。ボウイの曲中のガースンのピアノが、メロンの上の生ハムのような、あるいは酢豚の中のパイナップルのような存在に感じられてしまうのだ。ギターのアール・スリックさんも70年代にずっと一緒だったベテランだそうだ(私はバンドメンバーまでちゃんと把握してないからよく知らないけど)。かつてクイーンと共演した『アンダー・プレッシャー』という曲(シングルだったそうで、実は私はこの曲を知らなかった)をやって、非常に盛り上がっていたけれど、フレディー・マーキュリーの代わりというとてつもない大役をこなした黒人女性ベーシスト兼ボーカリストのゲイル・アン・ドロシーさんの歌は、超人的な上手さだと感じ入った。

 演奏した曲目は、さすがに『リアリティ / Reality』からが一番多く、『ヒーザン / Heathen』あたりも含めて最近の曲が3分の1、残りの3分の2は昔の曲からまんべんなくといった感じで、とにかく名曲のオンパレードだった。アンコールも5曲ぐらいやったと思うが、締めはやっぱり『ジギー・スターダスト / The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars』から引っ張ってきた数曲。観客は本当に皆、感動、大満足して家路についたものだと思う。私はといえば、デヴィッド・ボウイに対する熱中度が確実に上がってしまった。

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