フランク・フリップ
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アート・オブ・ノイズ 〜The Art Of Noise〜

 これ、頭にTheが付くのか付かないのかよくわからない。私の認識としては、ソフト・マシーンと同じく、最初は『The Art Of Noise』だったものが、後に『Art Of Noise』になった(4枚目のアルバムからTheがとれてる)という逆アルフィーパターン。ジャケットの変遷を見ているとそれは確かだと思うんだが、ウィキペディアで見ると、Theが付いてる。こういう問題は普段はどうでもいいんだけれど、改めて文章を書こうという時に困る。でも後の企画盤なんかで出てくるのはみんなThe付きなので、それに従おう。日本語にする場合、これも『ジ』をつけたり付けなかったりだけど、普通は『ジ』を省いて書いている事が多いので、それも倣う。

「アート・オブ・ノイズなんて知らん」

 と言う人でも、日本に住んでいて普通にテレビを見る人なら、絶対と言ってもいいぐらい馴染みの曲がある。それはMr.マリックの登場曲。あの、ビャンビャンビャンビャンビャンビャンビャビャン、っていうやつ。あれこそが日本において最も有名なアート・オブ・ノイズの曲なのだ。あれは彼らのセカンドアルバムに収録された『Legs』という曲なんだが、セカンドから4枚目までがずーっと廃盤になってしまっていて、いつまでたっても再発されない。たぶん、権利関係で揉めているのではなかろうかと思う。でなけりゃ、あれだけの傑作アルバム群を蔑ろにし続けるなんてことが有り得ようはずがない。ちなみに私、セカンドアルバムだけ持っていなくて是非欲しいのだけれど、中古のCDはプレミアが付いちゃってエライ値段になっているから買えないし、昔、友人に借りてダビングしたテープだけがどこかにあるという状況なので、聴きたいのだけれど長らく聴いていない。頼むから出してくれよう。

 私が最初にアート・オブ・ノイズを聴いたのがこのセカンドアルバム『イン・ヴィジブル・サイレンス / In Visible Silence』なんだけれど、これは幼なじみで大学も一緒になった友人のS公から大学時代に借りたもので、なかなか楽しいと気に入って聴いていた(当時はまだMr.マリックがテレビに出てくる前だった)。当時、南野陽子とか西村知美とかを聴いていた別の友人のM木君(ギョーザコンパの準備で具材を掻き回した男。ちなみに彼の名誉のために書いておくと、さすがに西村知美の歌唱力とか浮世離れしたセリフなどを聴いているときには恥ずかしさを覚えていたようではある)が、この『イン・ヴィジブル・サイレンス』を私の横で聴かされた時に、

「なんだこれ!? こんなん聴くんか? 頭おかしいんじゃねえか?」

 と、驚愕と戸惑いと蔑みの混ざったような顔で言ったのを憶えている。

「そう? いいよ、これ。 S公から借りたんだ」

 と私が言うと、

「なに!? S公もこんなん好きなんか? 大丈夫か、S公」

 と、まるで我々を奇人扱いしていたけれど、でも、そんなにおかしな音楽じゃあない。そりゃ、西村知美とはかけ離れた音楽ではあるけれど。むしろ、向こうの方がおかしな音楽だからね(西村さんが「夢…ドリーム」とかいったセリフを語ってらっしゃるのを聞かせてもらった記憶があるが、その時はM木君も照れ隠しに多弁になっていた)。

 で、だ。アート・オブ・ノイズはあのトレヴァー・ホーンが中心になって立ち上がったバンドだ。トレヴァー・ホーンといえば、バグルズ(未だに『バグルズ』なんだか『バグルス』なんだかよくわかってないが、どっちだ?)で大ヒットを飛ばし、ジョン・アンダーソンなきあとのイエスにバンドごと吸収合併されて、風采の上がらぬトンボ眼鏡姿で頑張って唄ったものの、イエスファンにはまったく受け入れてもらえずに寂しく去っていった人だ(私は受け入れてる。というのも、最初にイエスを聴いたのが、ホーン在籍時の曲だったから)。でも、彼は才人だった。名プロデューサーとなって、当時の音楽業界をリードすることになったんだが、彼が設立したZTTレーベルの主力アーティストとして世に現れたのがアート・オブ・ノイズだったそうな。発足当初はその構成メンバーも完全に正体不明だったが、その中身はZTTのエンジニア集団だった。つまりはホーンさんのプロジェクト的な組織であって、ZTTの核そのものという存在だったようだ。

 立ち上げ当時、ホーンさんはプロデューサーという立場だったが、それでいてグループのメンバーでもあるのか、それともやっぱり外の立場なのか、そこんところがよくわからない。そもそもそのへんは当の本人達もはっきり決めていなかったのかも知れない。少なくとも二枚目から四枚目までについてはホーンさんは関係していないから、この時期のメンバーたちは完全にエンジニアばっかりらしい。もちろんミュージシャンとして有名な人はおらず、世の中の皆さんが彼らの名前も顔もほとんどご存知ないのは当然で、私もよく知らない。三枚目に至ってメンバーは二人となり、そのJ.J.ジェクザリクさんとアン・ダドリーさんという名前は覚えたけれど、しかしやっぱりどんな顔かはよく知らない。でも、ホーンさんのもとを離れてからは、ライブもこなすし、ビデオクリップも作っていたようなので、割と顔は露出していたようではある。でも、写真が極端に少ない。持っているアルバムにまともな顔写真は皆無。ネットで捜しても極々小さい写真しか入手出来ず、おまけに誰が誰やらわからんけれど、いちおう決まりごとなので似顔絵は適当には描く。

 ファーストアルバム『誰がアート・オブ・ノイズを…… / (Who's Afraid Of?) The Art Of Noise』の後にZTTレーベルを離れたメンバーたちは、すなわちホーンさんと別れて独自に活動することになり、傑作アルバムを三枚出した。このときの三枚がすべて廃盤であるということは、やっぱりZTTの陰謀なのか。ずっと後になって、ホーンさんと共に新生アート・オブ・ノイズとして出した『ドビュッシーの誘惑 / The Seduction Of Claude Debussy』は私の好みじゃなくて(ラップが多用されてるところが嫌い)、出来はいまいちだと強く思うけれど、このアルバムとファーストだけはずっと販売されているということから見ても、やっぱりセコイ権利関係のトラブルがあるに違いない。ちなみに、最新アルバムのみJ.J.ジェクザリクさんが参加していないところからすると、アート・オブ・ノイズの音楽的な核はジェクザリクさんに違いないと勝手に判断する。早く廃盤三枚を再発してくださいますように。まあ、ファーストだって素敵だけど、廃盤三枚はさらに素晴らしいと私は皆様に強くお薦めするわけである。いつまでも廃盤になっているということは(2007年夏現在)、世の損失なのである。

 彼らの音楽性については、まあ、なんちゅうか、機械頼みの音楽ではある。でも、四枚目の『ビロウ・ザ・ウェイスト / Below The Waste』なんて、とってもアフリカンで、機械頼みから相当に脱却している。なかでも『Yebo!』というノリノリの曲は、我が妻に言わせると、

「ズンドコ系の最高傑作だね!」

 と激賞するほどの作品だ。これがアート・オブ・ノイズの音楽だと言えるのか、という疑問はあるけれど。

 彼らの音楽はとにかく心地がいい。腹に響く破壊的なビート。シャレが効いてるし、インテリジェンスを強く感じる。ノリだけではなくて、クラシカルでジワンと感じる美しいナンバーもちりばめられているし、決して時代に乗ろうとした軽くてあざとい音楽ではない。むしろ、ひねくれ者の音楽だ。機械頼みゆえ、要するにテクノだとのくくりで語られることもあるが、従来のテクノのイメージとはその音の質は全く異なっている。なんとも説明しにくいのだけれど、とにかく知らない人には是非聴いて欲しい。とりあえずファースト+αの『Daft』というアルバムがあるらしいので、それがお薦め。

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