フランク・フリップ
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ピーター・ガブリエル 〜Peter Gabriel〜

 10年ぶりに新譜『Up』が出た。この10年の間にピーガブの腹も出た。白髪、あご髭、はげ頭の爺さんになった。相変わらずのひねくれ者で、この新譜CDの表裏がモーレツにわかりづらい。日本版にはボーナスCDも付いているが、2枚そろってわかりづらい。そんなところで人を混乱させて何が楽しいのか知らないが、この人には、どうでもいいところでむやみに不親切だったりする悪趣味があるようだ。象徴的なのがソロアルバムのタイトル。最初の4枚は、『Peter Gabriel I』『Peter Gabriel II』『Peter Gabriel III』『Peter Gabriel IV』と、販売上は便宜的に数字がふられているが、実のところこれらは全て『Peter Gabriel』という同タイトルのアルバムである。取り扱い上とても困るので、それぞれ違ったタイトルにしてくれるようレコード会社がピーガブに申し入れても全く聞き入れなかったらしい。とんだへそ曲がりの頑固者なのである。そのへそ曲がり具合については、ジェネシスの元同僚トニー・バンクスも語っていて、曰く、

「すまして黙っていればそれなりにいい男なのに、いつも変な風に頭を剃ってみたり、妙な化粧をしたりで、自分を格好良く見せようというような気が全然ないみたいだ」

 表現は確かじゃないが、こんな内容の事を語っていた。

 そんなひねくれ者も、5枚目の大傑作アルバムからは個別のタイトルを付けるようになって、『So』『Us』『Up』と2文字単語の連続で来た。この辺のまとめ方も彼らしいこだわりという感じだが、この流れで行くと1年半ぐらいの間に出したいと語っている次のアルバムも2文字単語になるのだろうか。なんだろう。

『No』 『Do』 『Go』 『Be』 『Is』 『Am』 『As』 『To』 『In』 『On』 『Or』 『At』 『By』 『Of』 『An』 『It』 『Pa』 『Ma』 『My』 『Me』 『We』 『He』 『Li』 『Be』 『Ne』 『Na』 『Mg』 『Al』 『Si』 『Cl』 『Ar』 『Ca』 『Ti』 『Fe』 『Ni』 『Cu』 『Zn』 『Ag』 『Au』…。

 途中から元素記号になった。元素記号はないとして、今までと傾向がちょっと違うところで、『Do』『Go』『Be』『As』『To』あたりがあやしい。私が思うに、最有力は『To』。この重要単語の奥深さがなかなか良い。当たったら誰か褒めて下さいな。

 そんなことはさておき。新譜の『Up』だが、さすがにピーガブで、すぐ「良い!」とは思わない。10回ぐらい聴いても判断が付きかねる曲もある。普通のアーティストの場合、いきなり「良い!」と興奮した後に割とすぐ飽きてしまったりするが、深いアーティストの場合、その音楽はスルメのごとくで、聴けば聴くほど味が出てきて病みつきになる。ピーガブはもちろん深いアーティストなので、そう簡単に判断がつくようなものは出してこない。と、うがっていると結局良くなかった、なんてこともあるかなと思わないこともないが、それでも更に聴き続けると「実は良かった!」とずっと奥深くから味が染み出て来たりする。というようなわけで、この人は希なアーティストである。人間がひねくれているということは、なにごとも普通じゃ済まされない質ということで、その作品も簡単に判断できるような素直なものではない。かといって、はったりの難解な音楽というわけでは全くなく、しっかりとメロディアスである。

 他の人には真似できない強い個性をもつ作品を作るアーティストというのは、人間が個性的である。あるいは変人と言ってもいい。普通が嫌いであって、他人とどれだけ違うかということに誇り持つ。己の資質に自信を持っているし、自分にしかできない仕事をするという使命感に燃えているものだ。もちろん流行なんてものは大嫌いだし、目立つことを目的として意識的に奇をてらったパフォーマンスをする輩なんかとは全く違う。そんな連中を最も忌み嫌うのも本物の個性派である。というより、そもそも相手にはしない。個性派は個性派同士気が合うので、彼らの交友関係はとても豪華である。ピーガブのお友達といえば、ブライアン・イーノ、ロバート・フリップ、ピーター・ハミル、イアン・マクドナルドなど。なんと素敵な面々かな。ちなみにマクドナルドとは幼馴染みだそうな。

 ロバート・フリップといえば、ピーガブのソロアルバムにおいても重要な役割を果たしている。最初の3枚ではギターをプレイしているし、2枚目はプロデュースもしている。クリムゾン好きの私としてはフリップ色の強いセカンドに痺れる。特に『ホワイト・シャドウ / White Shadow』でのフリップのギターソロはたまらない。こういう叙情的かつ伸びやかなソロプレイは、どういうわけかクリムゾンでは聴くことができないから、いつもゲスト参加作品だけでのお楽しみなのである。この曲はちょっとした個人的な思い出とも関連しているので、なんとも言えず泣けてくるのだ。泣かないけど。それからもう1曲素晴らしいのが『エクスポージャー / Exposure』。フリップのファーストソロアルバムのタイトル曲でもあり、フリップとピーガブの共作である。フリップのソロアルバムの中のものとはバージョンが違っていて、あっちはかなり激しいテンションだが、こちらのピーガブバージョンはとても渋い。どういうわけか「退屈」とか「単調」とか「駄曲」とか「いらない」とか、こき下ろす人も少なくないようだが、私からするとこんなに格好良い曲はない。単調なのに格好良いとは素晴らしいじゃあないか。でも確かに、『So』の『君の瞳に / In Your Eyes』みたいなラブソングにポーッとなっている女性ファンなんかからすると、
「こんなの、エ糞ポーじゃあ!」
 ってなところかも知れないかな。

 実のところ、ピーガブ本人もセカンドあたりはそれほど好きじゃないようで、10年程前の来日公演ではセカンドアルバムの曲は1曲もやっていない。一方のフリップと言えば、後のシルヴィアン・フリップのライブで『エクスポージャー』を演奏してくれた。まあ、フリップ抜きでは成り立たない曲ではあるか。

 フリップがピーガブのセカンドアルバムをプロデュースしたとき、ピーガブのノンビリさ加減に呆れたらしい。ピーガブの伝記を読んだとき、どうも私に似ているところが多いなあと思ったけれど、このノンビリもその一つ。フリップはとてもパワフルな人で、何事も精力的に隙無くこなしていくけれど、ピーガブはより雰囲気とかタイミングなどを重んじるタイプだと思う。出来ないなら時期を待とうというところがあって、レコーディングもなかなか進んでいかなかったらしい。業を煮やしたフリップがなんとか尻を叩いて急がせたそうである。

 この2人とずっと一緒に仕事をしてきたトニー・レヴィンの証言によれば、2人のキャラクターの違いがよく分かる。もともとフリップとレヴィンは、ピーガブのファーストアルバムのレコーディングで顔を合わせたのが縁でディシプリン・クリムゾンへ至ったわけだが、クリムゾンでの仕事はとても真剣で気を使うものであり、一方のピーガブ・バンドはまず楽しむことを大切にしているとのことだ。その辺が彼の音楽にも現れていて、

「I Love You,Peter!」

 なんてことを女性の観客に叫ばせる魅力となっているのだろう。残念ながらクリムゾンのライブでそんなことを叫ぶ女性はいない。かけ声は全部野太い声である。可哀想なフリップ。

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