フランク・フリップ
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エイジア 〜Asia〜

 2007年3月8日、エイジア来日公演に行ってきた。今回の見どころは、なんといってもオリジナルメンバーによる復活ライブということで、このメンツによる来日は結成25年にして初めてなんである。会場はプログレの聖地、東京厚生年金会館。クリムゾンを始め、ELP、ABWHなんかもここの会場でライブをやったんじゃなかったっけかな。一世を風靡した名バンドが演奏するにはちょっとこぢんまりし過ぎた会場だが、その分どの席からでもかなり間近に見えるので嬉しいホールだ。

 1983年12月のエイジア初来日公演は、ジョン・ウェットンが脱退したためにグレッグ・レイクが代役を務めたという話だが、私は当時、ファーストアルバム以降のエイジアの動向には全く興味を持っていなかったので、その事実はかなり後になってから知った。レイクがヴォーカルのエイジアというのはとても興味深いので、もし知っていたなら見に行きたかったところだが、当時仙台の高校三年生では、いずれにしても武道館なんかには行けなかったろう。受験も間近だったわけだし。

 というわけで、やって来ましたオリジナル・エイジア。エイジア自体が当時ひとブーム過ぎ去った後の時代遅れプログレだったのに、それからなお25年が経過しているってのはすごいことだ。クリムゾンやイエスやELPなんてさらに昔なわけだから、プログレの全盛時代なんて、それはそれは大昔になっちまったもんだなあ。

 最近の太り具合から『メタボリック・ロック』という新しいジャンルを確立したと(一部で勝手に)言われているエイジアだが、まあ、せいぜいがよくある中年太り程度だろう、と私は思っていたわけである。ところがどっこい、ああ、悲しいかな。メンバーがステージに現れたとたん、目が点になった。

「武道館の再現だ!」

 なんたって、またもやグレッグ・レイクが現れたんだから。とは思わなかったけれど、そのウェットンの激太り具合は、想像を遥かに超えていた。

 なんだその腹! なんだその顔! すっかりアンパンマンじゃないか! ってことは、横にいる眼鏡をかけたお爺さんは、やなせたかし先生か? と思ったら(思ってないけど)、スティーヴ・ハウさんだった。

 昔のウェットンしか知らない人に今の彼の写真を見せたら、絶対にウェットンだとは分からないと思う。あの格好良くてダンディだったもみあげウェットンはどこへ行ってしまったのだ。もみあげは剃っちゃったとしても、そこまで変貌することはないじゃないか、いくらなんでも。スターの誇りをすっかり失ってしまったのか。ファンのイメージってものをちょっとは考えてもらわないとなあ。ちょっと前に来たデヴィッド・ボウイは、若々しくて格好良いままだったぞ。京本政樹だって、80歳まであの髪形と体形を維持するに違いない。それがいい男スターの意地ってもんじゃあないのか。アルフィーの高見沢さんについては、ノーコメント。

『ジョン・ウェッ豚』

 もはやこの字面でしか彼の名前を思い浮かべられなくなってしまった。以前にスティーヴ・ハケットやイアン・マクドナルドとツアーをやった時にはこんなにひどくはなかったのに、いったいその後の数年間になにがあったのだろう。肥え、もとい、声には全然衰えを感じなかったのがせめてもの救いだ。恒例の決めゼリフ、

「キミタチ、サイコダヨ」

 も、やや控えめながら言ってくれた。

 カール・パーマーには上と下に兄弟がいて、弟の名前はストレート・パーマー、ちょっと恐いお兄さんはパンチ・パーマーだ、なんてくだらないことを考えて喜んでいたりもしたけれど、そんなことはまあ、どうでもよろしい。今回のカール・パーマーは髪の毛は全然カールしてなくて、妙に短いストレート、イタリアあたりのちょっとオシャレ風なおばさんにありそうな髪形だった。もう10年ぐらいになるのか、前回ELPのライブで見た時には、まだ上半身の裸をさらしてもなんとか見ていられる体だったけれど、今回はすっかりタプタプになっていた。その体のせいか、さすがに裸ソロはやらなかったけれど、彼のドラムソロは相変わらずとっても楽しい。とにかく全力で叩いてくれるし、客を楽しませようというその姿勢が素晴らしい。テクニック的にも全然衰えていなかった。やっぱり名ドラマーのドラム・ソロはライブの花形で、これが楽しいとライブは大いに盛り上がる。パーマーのソロはブラッフォードのドラム・ソロと並んで最高なのだ。

 ひとりだけ肥満とは全く無縁で、メタボリック・ロックを拒絶するスティーヴ・ハウさんだが、間も無く還暦を迎える年齢になってかなり老けてきている。孫を相手に静かに物語を読み聞かせてくれそうな、穏やかで優しいお爺さん、という風情だ。ギターは相変わらずモタモタしている感じだが、これは若い時からのことなので、特に衰えたというわけではなさそうである。ピョンとジャンプしてみたり、片足を上げてみたり、彼なりにロック・ギタリストとしての演出をしてくれているようだが、正直、まるで決まってない。その心意気にだけ感謝して、

「無理をしなくてもいいですよ」

 と、心の中で呼びかけた。

 ジェフ・ダウンズは、お客さんから最も軽く見られているに違いないメンバーだが、私の席からは一番遠かったし、演奏もいたって普通、顔自体よく把握してないぐらいの人なので、これといった印象はなし。なんにしても、彼もパーマー程度には太っていた。

 客層はやっぱり私と同年代かそれ以上が多かった。とてもじゃないがロックとは無縁そうに見えるようなおじさんたちが、不器用なノリでリズムを取っていたり手拍子をしている様がなんともミョウチクリンだ。でも、とても楽しそう。年齢高いんだから座ってりゃいいものを、私のいた席(1階6列め)のあたりは最初からみんな立ち上がっちゃって、そのまま最後まで立ちっぱなしだった。お陰で足の裏が痛くなった。

 演奏したのはファーストからがたぶん全曲、セカンドからが3曲、その他が6曲。その他のうちの1曲はまるで知らない曲で、ウェットンがなにやら説明していたところと客席の反応からすると初お披露目の曲っぽいが、英語をほとんど理解出来なかったのでよくわからない。それにしても、あらためてファーストの曲の素晴らしさ、セカンドの曲のダメさ加減を認識した。このライブの為にセカンドの『アルファ / Alpha』を買って1週間ぐらい聴き続けていたけれど、これでこれからは聴かなくて済むかと思うとホッとする、ってぐらいあのアルバムはヒドイ。ファーストの曲が良く出来ているのは、ウェットンの他にハウさんが曲作りの中心になっているからのようだが、それでプログレ要素が多くて、味わいがあるんだなと思う。そのかわり、アレンジについちゃあ、ダサくて仕方がないけれど。セカンドは、ウェットンとジェフのチームが中心になって曲作りをしたってことなので、おかげで音のダサさは多少消えたものの、プログレ要素も魅力的な旋律も消えてしまった。あるのはクサさと安さと大仰さばかり。キング・クリムゾンが文字通り『プログレの王道』だとすれば、エイジアは『プログレの大仰』といったところか。

 ファーストの曲はとても楽しめた。ライブで聴いているとダサさも気にならない。最近聴きっぱなしだったから麻痺しちゃったのか、あるいはウェットンの肥満具合にばかり注意が引き付けられたからなのかはわからないけれど。ダサさは気にならないが、演奏の大らかさは気になる。それも含めてエイジアなんだが、根本原因は結局パーマーのドラムにあると思った。リズム感がやっぱり悪い。手数は多くて、パワフルで、人柄も明るくてとっても楽しいんだけれど、でも、走る。手数が多いぶん、リズムキープが難しいのかも知れないが、それにしても突っ走り過ぎだろう。こらえ性がないのか落ち着きがないのか、決めのシンバルとか最後のひと叩きがちょっと早い、ってパターンが多い。

「昔は良かったんだけど、今はねえ…」

 と、ジミー・ペイジがパーマーのドラミングについて語っていたという話をどっかで読んだが、もしかすると、そこら辺の基本的なリズム感の悪さのこと言っていたのかもしれない。

 突っ走るパーマーに対して、ハウさんのギターは基本的にモタモタと遅れがちなので、その組み合わせがとっても怪しいリズムとして表れているのだなと思った。ついでに言えば、ジェフ・ダウンズもあまりリズム感のいい人じゃないなと感じた。ウェットンのリズムは悪くないと思うのだが、他がバラバラなので、もうどうにでもなれ、と開き直った演奏をしている風にも見えないことはない。ドラムソロ以降は疲れが出たのか、パーマーが突っ走らなくなってリズムが落ち着いたようにも聴こえたが、前半はとにかくリズムが乱れているし、ハウのミスタッチも多いし、

「ま、だいたいでいいんじゃん」

 といったテキトーさが伝わってきて、それが面白くて聴きながらひとりでニヤニヤ笑っていた。

 今回のライブの見どころは、エイジアの名曲もさることながら、それぞれの出身バンドの曲をこのメンバーで演奏するということだ。実はこのおまけを目当てに来たというファンも結構いたんじゃなかろうか。

 まず最初に演奏したのはイエスの『ラウンドアバウト』。わざわざドラムセットを下りたパーマーが、マイク片手にステージの中央にまで出て来て曲紹介をした。この後、何度もパーマーは前へ出て司会進行をしたが、フロントマンのウェットンよりも、パーマーの話す機会の方が多かったのが不思議だった。ELPのライブでなんて、パーマーはさっぱりしゃべらなかったのに。それは、ウェットンとレイクの自己主張の強さの違いなのかもしれない。ゴリ押しのレイクは、

「でしゃばるんじゃねえ」

 ってなもんで、他のメンバーにはしゃべらせないのかも知れない(あくまで想像)。それに比べると、ウェットンは意外と押しが強くなさそうでもある。もっとも、酒癖は悪く、かつて来日前にエイジアを脱退したのは、ウェットンの酒癖の悪さゆえ、バンドを解雇されたのが真相だという話もあるらしい。

 で、『ラウンドアバウト』だが、これはパーマーのドラムもウェットンのヴォーカルも、特に違和感がなかった。実はイエスにアンダーソンのヴォーカルは不可欠というわけでもないのかもしれない、とさえ思ったぐらいだ。もちろん曲調にもよるんだろうけれど。ただ、ウェットンが、スクワイアのリード・ベースとも言うべき、あの個性的な演奏をなぞると、さすがにこれはウェットンらしからぬプレイだ、と妙な感じがした。おそらくエイジア・ファンという以上にプログレ・ファンたちが集っていたに違いないと思うが、それだけに会場は大盛り上がりだった。やっぱりこの曲は歴史的な傑作なのだ。実に格好いい。

 ELPからは『庶民のファンファーレ』。どうしてこの選曲なのかよくわからないが、キーボードがあまり目立ちすぎず、ドラムの活躍がそこそこで、ギターパートを無理矢理追加するのに向いている、とかいったことが理由かもしれない。ギターが加わったということ以上に原曲よりもアグレッシヴでパワフルな音になっていたが、悪く言うと勢いだけで突き進んでいるといった(特にパーマーのドラムが)感じで、盛り上がったんだけれど乱雑な印象ではあった。インストゥルメンタルなので、どうせならヴォーカル曲が聴きたかったところではある。

 ハウのアコースティック・ソロもあった。この曲、かの名曲『クラップ』なのかな、とも思ったが、よくわからない。アレンジを変えすぎた『クラップ』なのか、『クラップ』によく似た別の曲なのか、どちらともとれる。どうせなら馴染みのあるバージョンの『クラップ』が聴きたかった。かつてのイエスのライブでは聴いたことがあるかもしれないが、今となっては記憶が消滅している。

 クリムゾンからは『クリムゾン・キングの宮殿』。これもまたどうしてなのか疑問で、どうせならウェットン在籍時の曲をやってもらいたいところだった。『スターレス』とか。でも、あまりフリップのギターが特徴的な曲はハウが嫌がるとか、ダウンズの仕事用にメロトロンのパートがある曲がいいとか、そんな理由があったのかもしれない。もしかすると、この曲を歌う為に、レイクになりきろうと頑張った結果がウェットン激太りの真相なのか。演奏的には、これといって見せ場もないし、ちょっともの足りない印象ではあった。それにしても、この曲のオリジナルがリリースされてから37年余り。とんでもない時間が経ったものだが、いまだに生でその演奏が聴けるとは実に感動的だ。と思いきや、この中にクリムゾンのオリジナルメンバーは一人もいないのだった。

 おまけの最後はバグルスの『ラジオ・スターの悲劇』。ダウンズがキンキラジャケットにサングラスをして現れ、ウェットンがエフェクト用のハンドマイクのようなものを持ちだすと、会場から笑いが起こった。ウェットンと『ラジオ・スターの悲劇』はあまりにもミスマッチに思えるが、ウェットンもそこのところは気を遣って、あまり歌い上げ過ぎないようにしていたから、それほど違和感もなかった。やっぱりこの曲は、ポップ・ロックの歴史的名曲だ。実に楽しく会場は大いに盛り上がった。

 観客に歌を強要したり(強要は言い過ぎだが)、無理に声を上げさせようとするウェットンは、プログレのライブのマナーからはちょっと逸脱していたが(そういうノリが辛いと思う人が多いのもプログレ・ファンの特徴だと思う)、それこそがエイジアはほとんどプログレじゃないという証であると言えるかも知れない。ジェフ・ダウンズとジョン・ウェットンの肥満ペアが定番の背中合わせ姿で演奏してる様は、あまりにも格好良くなくて悲しくなった。といいつつ、笑ってしまったのだが、プログレうんぬんという以前に、もうあれはロック・スターの体じゃあないのだ。

 こうなりゃ、グレッグ・レイク、ジョン・ウェットン、デヴィッド・ギルモア、クリス・スクワイアあたりで、スーパー巨体バンドを結成しちゃうってのはどうだろう。やたらベースばっかり多いけど。そういやその前に、ウェットンにはU.K.をやってもらわなきゃいけなかったな。ぜひ。

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