出不精が行く!!
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NZ新婚旅行記 〜その9 ハリー、グッドボーイ〜

 クイーンズタウンは人口3,400人足らず(当時。今は倍以上に増えているようだ)の小さな町だが、ニュージーランドで3番目の大きさの湖、ワカティプ湖に面し、サザン・アルプスを一望できるとても美しいところだ。その環境の素晴らしさからニュージーランドでも有数のリゾート地となっており、一年を通して観光客が絶えないらしい。

 この町はただのんびり過ごすタイプのリゾート地ではない。とにかくアウトドアのレジャー派にはたまらない遊びの宝庫のようだ。なにができるのかと言えば、ラフティング(=ゴムボートでの急流下り)、バンジージャンプ、ジェットボート、パラグライダー、パラセイリング、そしてスキーだ。そもそも(レジャーとしての)バンジージャンプの発祥の地はこのクイーンズタウンそばのカワラウ川らしい。しかし、峠道でビビりまくってきたばかりの高所恐怖症インドア夫婦が、もちろんバンジーやらパラグライダーやらをやるわけもない。高台にあるステキなモーテルに宿をとってしばし横になり、恐怖に縮んだ身体を伸ばした後は、ぶらりと町を散歩しに出た。

 町の北側のボブス・ヒルにはその急角度具合では世界でも有数というゴンドラがあり、440mという高低差を3分で一気に登ってしまう。途中、山の斜面から鉄橋のような構造物がニョキッと水平に突き出ていた。これはなんだろうかと思ったら、どうやらバンジージャンプ台らしい。その高さたるや尋常じゃない。オリジナルのカワラウ渓谷は43mらしいが、これはその比ではなく、私など恐ろしくて、その先端に歩いていくことさえ間違いなく不可能である。でも、この時には稼働していない様子だった。ボブス・ヒルの頂上にはレストランなどあるらしいが(ほとんど忘却の彼方)、展望台からクイーンズタウンの町とワカティプ湖を眺めてすぐ降りてきた。

 この頃になると本当にこちらの食べ物に飽き飽きしていたので、夕食は迷わず日本食の『南十字星』という店に入った。そば、寿司、おでん、生姜焼きなどを食した。うまかったかどうかは記憶にも日記の記述にもないので不明。店を出ると、目の前に小さな観光用の馬車が停まっていた。馬の好きな妻が目をキラキラと輝かせるので、こういうのもたまにはいいか、と乗ることにする。馬の名はハリー、年齢は10歳である。と、御者のお兄さんが説明した。この御者のお兄さんはなかなかハンサムで笑顔が優しいナイスガイである。妻はちょっと恋したらしい。このお兄さんがさかんに、
「ハリー、グッドボーイ」
 と愛馬に声をかける。まさにハリーはグッドボーイで、とても健気に馬車を引っ張ってくれる。馬車馬なので当たり前なのだが、それでもなんだか我々からも、
「ハリー、グッドボーイ」
 と言ってやりたくなる。でも、もちろん言わない。なぜなら、そういう夫婦だからである。馬車は町を一回りぐるっと巡って元の場所へ戻った。我々は別れ際、
「ハリー、グッドナイト」
 と声をかけた…わけもない。なぜなら、そういう夫婦だからである。

 翌朝。その日の宿泊地にするつもりだったミルフォード・サウンドの宿がとれず、その手前のテ・アナウのモーテルに予約を入れた。この日の移動距離が120kmも短くなってしまったから、しばらくクイーンズタウンで時間を過ごしていくことになった。とりあえず朝食を軽く済ませ、湖に行ってみる。湖の中を覗ける水中小屋があったので入ってみた。小屋の周りにエサをまいているようで、魚や水鳥が沢山見られるが、せいぜい15分もすれば飽きてしまう。さて、時間があまる。ということで、せっかくだからジェットボートに乗ることにした。2人で90ドルだが、それなりの価値はあった。

 ジェットボートは10人乗りぐらいで、スクリューではなくジェット噴射で進む。最高速度は時速80kmほどだそうだ。しばらくはゆっくりとした速度で、湖からショットオーバー川まで移動する。そこからが大変である。えらい高速からウギャーンジャバババーッとスピンターンして止まる。ターンする度、水しぶきドバーン、である。岩のそばをかすめ、木の下をくぐり、クルクルザバババ、大変な騒ぎだったが、それも割とすぐに馴れて、馴れた頃にはもうお帰りである。最初はかなり刺激的だし、妻などはとても怖がっていたが、それほどバリエーションがないものなので、2回乗る人は少なかろうと思う。何年か前(我々が乗った時より後)に、日本人旅行者がこのジェットボートで事故死したが、さすがに間違って岩に激突したりすればただじゃ済まないぐらいの危険性はある。まあ、所要時間1時間で時間もつぶせたし、なかなか楽しかった。

 もう少し時間がある。なんとはなしに湖畔を歩いていると、ハリー・グッドボーイたちがいた。まだお仕事の準備段階である。例の温かみある御者のお兄さんが、真剣な表情で蹄鉄の手入れなどをしていた。その様子を近くから眺め、恋した妻は写真なども撮りながらクイーンズタウンの最後の時間をゆっくりと過ごした。ハリーとの別れ際、我々は、
「ハリー、グッドバイ」
 とは言わなかった。なぜなら、そういう夫婦だからである。

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