出不精が行く!!
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NZ新婚旅行記 〜その7 一部ホワイト・クリスマス〜

 海沿いのティマルを後にして、内陸部へ進んだ。まず向かったのはテカポ湖。この湖のほとりに小さな建物が建っている風景は、当時タバコのCM(たぶんセーラムライト)に使われて、ニュージーランドといえばこの景色、というほど有名になった。その建物こそ、これから向かおうとする『善き羊飼いの教会』である。朝は一面雲に覆われていた空が、テカポに近づくほどに晴れて行き、到着した時には澄みきった青空となった。真っ青な空と真っ白い雪山と輝く水面のミルキー・ブルーが作り出す美しすぎる景色は日本では目にする事のできないものだろう。100万ドルの風景と言われるそうだが、もしそれがこの景色の価値をあらわした値段ならあまりにも安すぎる。有名な場所だけにさすがに観光客が多く、日本の新婚カップルがワンサカいた。湖畔には花までたくさん咲いている念の入れようで(自生したものかも知れないけど)妻はその景色に感動して、フィルム何本分もの写真を撮りまくった。

 テカポの土産物屋でポテトチップとコーンのスナックを買い、マウント・クックへ向かった。道中、そのスナックを食べてみたが、そりゃもう大変なものである。ニュージーランドの食べ物がマズイということはさんざん書いてきたが、それはお菓子類にもあてはまる事だ。ポテトチップにはさほどの印象はないが、もちろんうまかったわけはないはずである。だが問題はコーンのスナックで、これは日本で言えばカールに似ている。ああいうものは味もさる事ながら食感も大切だと思うが、このスナックの大きさと固さときたらえらいことで、口の中が傷だらけになりそうな具合だ。味ももちろん良くない。よくぞこれだけマズイものをこの国の人達は当たり前に食っているものだといつもながらに感心する。このスナック、ついに旅の終わりまで消費仕切れなかった。日本のスナック菓子をこの国に輸出したらきっと良く売れると思う。

 マウント・クックへ向かう手前にプカキ湖というこれまた美しく大きな湖がある。この湖の水の色は信じられないほどに鮮やかである。こんな色をした湖はもちろん見た事がない。たとえるなら、クールバスクリンそのものの色だ。あまりにも輝かしい水色をしているので少し恐ろしさを感じるほどで、もしかすると生命活動が皆無の『死の湖』なのではないかとの印象を持った。まさに神秘的な美しさだ。

 この美しいプカキ湖を見おろす展望スポットがあった。黒のレザースーツに身を包んだ長身の白人ライダーがバイクの傍らで湖をひとりながめていた。我々も車を降りて静かに湖を眺めた。風の音と鳥の声以外何も聞こえないほど、とても静かだった。この世のものとは思えない美しさと静けさである。ガチャガチャした日本の街を離れ、広大な景色を前にゆったりとした時間を味わっているのがなんだかとても不思議だった。まさに至福の時間だった。

 すると、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。1台のワゴン車が静寂を破り近づいてきた。車が停まると、中から6,7人の家族が一斉に降りてきた。なんと中国人一家である。それまでの夢のように穏やかな空気が一瞬にして吹き飛んだ。うるさいなんてもんじゃない。全員が目一杯のかん高い大声で一斉に会話する。いうなれば宮川花子と柳沢慎吾が3,4人ずつ集まったような状態だ。彼らのあまりにも情緒のない態度に我々は呆気にとられ、白人ライダーと無言で顔を見合わせて、
「全く信じられないね」
 と、心の中で会話した。

 美しい景色は大声を出しながら見るものではない、と思う。言っちゃ悪いが、この美しすぎる風景にせわしなくかん高く馬鹿でかい声の中国語会話はあまりにもミスマッチである。しかし彼らはしゃべり続ける。人間、美しすぎるものを見ると言葉を失うものではないのか。どうしてあんたらはこの景色を見ながらしゃべり続けていられるのか。それもそんな大声で。彼らはほんの数分間おざなりに景色を眺めただけで、あっという間に行ってしまった。まさに嵐のように来て嵐のように去っていったという表現がふさわしい。彼らが何を話していたのかは知らないが、おそらくこんな感じではないかと想像する。

「あら、綺麗ね!」
「おお、綺麗だ!」
「綺麗だね!」
「綺麗じゃなあ!」
「さあ、見たからもう行こうか!」
「そうね、もう見たから行きましょう!」
「行こう行こう!」

 もちろん、中国人がみんなこんなだとは思っていないが、おしなべて見た時の傾向としてはそうだろうと思っている。やはり世界で一番うるさい民族は中国人に違いないと思わないわけにはいかないのだ。これを偏見だと感じた中国関係者の皆様、ご容赦ください。

 さて、この日の宿はマウント・クックの麓にあるホテル・ハーミテージである。客室からマウント・クックを一望できる立地で、マウント・クック村の中心となる高級ホテルだという。1,2日前に予約の電話を入れたのだが、国立公園内の数少ないホテルの中心施設であるからきっと空いてないだろうと思っていたら、すんなりと予約できた。おそらく料金が高いからに違いない。どれだけ高いのかといえば、ツインで200ドルを超える。これは部屋料金なので1人当たりは100ドルちょっと。7,8千円しかしないのだから大した事はないが、相場に比べればちょっと高めのようだ。

 マウント・クックはニュージーランドの最高峰である。南半球のスイス・アルプスと言われるサザン・アルプス山脈にあって、標高3,767mと富士山とほぼ同じ高さだ。1年のうち200日は雨だそうで、もちろん曇りの日もあるだろうからマウント・クックの姿を見るのにはよほど運が良くなければならないらしい。そして、我々が向かった当日は全くのド快晴だった。ホエール・ウォッチングは逃したが、その大雨のおかげで翌日は雲ひとつない青空となった。実に素晴らしい。部屋のテラスからはマウント・クックが本当に目の前に見える。夜には月明かりに照らされたマウント・クックがとても幻想的だった。

 夕方、客室でくつろいでいるとノックの音がした。ドアを開けると子供か大人が立っていて(私は2,3人の子供だったような憶えがあるが、妻は1人の大人だった気がすると言う。記憶というのはいい加減なものなのだ)、
「メリー・クリスマス!」
 と言って、チョコレートをくれた。そう、この日はクリスマス・イブだったのだ。南半球のクリスマスは夏なので雰囲気が出ないだろうと想像していたが、目の前には真っ白な雪山があって、素晴らしいホテルで迎えたクリスマスは充分にムードたっぷりだった。さすがに高級ホテルだし、クリスマスという事で料理もちょっと特別だったのか、チキンレッグの詰め物と野菜のポタージュのディナーはなかなか美味しかった。食事を終えて部屋へ戻る時、ロビーでは人々が集まってクリスマス・イベントをやっていた。片腕のないサンタクロースが何かを配ってまわっていた。しばらくその様子を立って眺めていると、そのサンタのおじさんが妻のところへやって来て、
「メリー・クリスマス!」
 と言いながらキャンディーをくれた。特にクリスマスをマウント・クックで迎えようと思っていたわけではなく、それどころかクリスマスということをすっかり忘れていたくらいだったから、この旅行中最高の環境でクリスマスを迎えられた事は本当に良い思い出になった。

 ところで、ホテルのエレベーターにはたぶん日本語が書いてあった(中国語ではないと思う)。まさに日本人観光客の多さを示すものだが、そこにあった文字は、
『低人:6名』
 だった。なかなか複雑な間違い方だなと思った。

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