出不精が行く!!
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NZ新婚旅行記 〜その6 南島へ渡る〜

 朝6時半に起きて、飯も食わずにモーテルをチェックアウトすると、すぐフェリーターミナルへ向かった。1,000キロ以上を走った車ともここでお別れである。フェリーに乗り込むと、前日にビクトリア山で見かけた日本人のお姉ちゃん3人組を発見した。例によってなぜかちょっと楽しくない気分となる。8時にフェリーがウェリントンを出港、3時間余りをかけてクック海峡を横断し、南島の港町ピクトンへ至る。天気はすこぶる良く、海は穏やかで美しかった。航海中、ずっとカモメがついてくる。乗客がスナック菓子を差し出すと、スーッと寄ってきては指先からエサを奪っていく。船も高速で進んでいるので、カモメとしても追っかけるのが大変なようで、並行して飛びながらいつまでもエサを取れない鈍くさい奴らもいる。遠くの岩場の上にはオットセイが寝そべり、水面を見ると小さなペンギンが一生懸命泳いでいたりして、とても楽しい。

 ピクトンでは新たに車を借りた。前と車種は同じ日本車だが、前回のシルバーからド真っ赤に変わった。我々、押しの弱い物静か夫婦にはあまりにも似付かわしくない色で、落ち着かないことこの上ない。でも結局はどうでもいいので特に文句も言わず素直に借りて出発した。南島最初の目的地はカイコウラという小さな町である。なんと人口2,000人というのどかさだが、なぜゆえにここを目指すのかといえば、その真の目的はホエール・ウォッチングである。日本語で言えば『鯨眺め』だ。ここで見られるのはマッコウクジラだそうで、場合によってはシャチにも出会えるかも知れない。12人乗りの小型のゴムボートで30mぐらいまで近づけるらしい。これは間違いなく今回の旅最大のイベントである。

 カイコウラへ行く途中、浜辺沿いの道端でロブスターを売っていた。塩ゆでした大きなロブスターが一匹1,000円程である。それを2匹買って昼飯とした。砂浜でロブスターを立ち食いしていると、カモメたちが「くれくれ」と足下に寄ってくる。食べ終えた殻を投げてやると、必死の争奪戦が巻き起こった。そんなカモメ・ウォッチングをしていると、なにやら足首の辺りがかゆい。見ると妻の足首から出血している。プンプンと群がる小虫たち。
「うわ、えらいこっちゃ!退散退散!」
 すぐに車に駆け込んで出発した。海辺には性質の悪い生き物がいるものだ。

 カイコウラに付くとすぐにホエール・ウォッチングの事務所へ行った。残念ながら当日分はもう終了していたので、翌朝8時30分出発のツアーを申し込んだ。適当なモーテルを見つけ、荷物を置くと、散歩に出かけた。少し歩くと別のモーテルの一室が見えた。窓の中にはまたまたあの日本人3人娘たちの姿がある。君たちはいったいどこまでついてくる気なのだ!この調子だときっと明日のホエール・ウォッチングでも同じ船、その後のクライストチャーチ観光も一緒になるに違いない。とは言えども、おそらく向こうは我々の存在には特に気付いていない。

 さて、翌日のド快晴を願って床へ入った我々だが、朝起きてみればド快晴どころかひどい大雨、おまけに強風である。海は大しけで、当然ホエール・ウォッチングは中止となった。これには心底がっかりしたが致し方ない。予定を変更してもう一泊し、天候の回復を待つという選択もないではなかったが、後々のスケジュールがつまっていることもあり、ここはあきらめて出発する事にした。これが実は全く幸運の選択であったことは日本へ帰ってから知るのであるが、この時はただ後ろ髪を引かれる思いであった。とりあえず時間的には余裕ができたので、しばらくはカイコウラを観光していこうということになった。カイコウラ半島の先端にはオットセイのコロニーがあり、100頭を超えるオットセイを間近で眺める事ができるという。他に見るべきものも無さそうなので行ってみると、なるほどそこそこはいるが、それほど多くもない。干潮じゃなかったのでそばには寄れなかったからかも知れないが、せいぜいが20頭ぐらいしか確認できない。強風のため雨と波しぶきで風景はかすんでいるし、傘をさしても体が濡れる。もちろんカメラも濡れてしまうので長い時間いるわけにはいかなかった。というわけで早々に切り上げて予定より相当早くにクライストチャーチへ向けて出発した。

 それにしても凄い雨である。時にはほとんど前が見えなくなるほどの土砂降りになって、時速100キロで走るのがさすがにちょっと怖い。若干速度を落としぎみに数時間走り続けた。クライストチャーチあたりでは雨は小降りだったが、実はこの頃、カイコウラはエライ事になっていたらしい。素敵な街のはずのクライストチャーチだが、なんとなく私はこの都市が気に入らなくて、宿泊予定をここから先のティマルという町まで移した。そのティマルの宿でテレビを見ていると、ニュース映像で洪水の様子が流れていた。なんとなく「カイコウラ」と言ったような気がしたが、今朝のカイコウラは全くそんな状況ではなかったので、おそらくなにかの聞き間違いだろうと思った。ところが後日、日本へ戻って妻が会社へ行ったところ、同僚たちから
「洪水大丈夫だったの?」
 と尋ねられた。それで、やはりあの映像はあの日のカイコウラのことだったのだと合点した。日本でもニュースになるほどの洪水になったようなので、あのままもう一泊など悠長なことをしていたらとんでもない目にあっていたかも知れない。そんなわけの、ついてるんだかついてないんだか分からないカイコウラであった。

 さて、ティマルという町は実になにもない。見るべき所も個性もないが、とりあえず次の目的地に近づいたということだけが良かった点だと言える。モーテルのおじさんにレストランの場所を聞いて、晩飯を食いに2人で歩いて行った。すると前方から楽しそうに騒ぎながら歩いてくる酔っ払いが2人。職人風である。我々に近づくとニコニコと話しかけてきた。手にはなぜか花を持っていたが、それを妻に与えると、
「メリークリスマス!カモン・ウィズ・アス、ドリンク、ジャスト20ミニッツ!」
 家へ来て一緒に飲もう、としつこく酒盛りへ誘った。とても陽気で楽しそうな2人であり、おそらく悪い人間ではないだろうとは思ったが、信用してついて行ったが最後、にわかに豹変して私を縛り上げ、金を奪ったあげくに2人で妻を…、なんて危険性も考えられなくはない。確か当時、イタリアで男の誘いにノコノコついて行った日本の女子学生たちが集団で暴行され、バカだチョンだと騒がれていたこともあり、私は用心した。もしも新婚旅行中にそんな事件に巻き込まれたとしたら、日本国中からどれだけアホ呼ばわりされるか知れない。私は、いつまでも食い下がる彼らに、
「レストランを予約してあるので」
 などと笑顔でウソを言って、機嫌を損ねないよう気を遣いながらなんとか断った。彼らが善人で、一緒に楽しく酒が飲めたとしたらきっと良い思い出になるだろうなあと思ったが、万が一の可能性を考えて行動するのが夫たるものの責任であろうと思ったのである。ついにあきらめた彼らは、妻に向かって「プリティ!」などと言いながら手にキスをして去って行った。

 予約をしたとウソをついたレストランは、予約など出来るはずもないようなファミリー・レストランであり、例によって例のごとく、ひどく美味しくなかった。

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