出不精が行く!!
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NZ新婚旅行記 〜その2 ニュージーランドへようこそ〜

 ちょっと地味だが、ニュージーランドの道路事情について書く。少し時間を戻そう。

 空港でレンタカーを借りた。世界的ネットワークを誇るHertz(ハーツ)レンタカーである。予約は日本で済ませてある。国際免許を見せると、車のキーとオークランドの市街地図、全国の道路地図と、各地のモーテルの案内が載ったガイドブックを渡された。地図は用意してきていないので、現地調達しようと思っていたが、渡された道路地図はいかにも無料という簡単さで、参考程度にしかならない代物に思えた。実際に役に立つ地図は買わなきゃならないのだなと思い、
「詳しい地図が欲しい」
 と言うと、受け付けの女性は不思議な顔をした。
「これ以上詳しい地図はありませんけど…」
 と、きっとこんなようなことを言った。ないならしょうがないので、ひとまずそれを持って出発した。一緒にカセットテープを渡されていたので、早速カーステレオでテープをかけてみた。

「ニュージーランドへようこそ」

 いきなり美木良介みたいなハスキーな日本語が聞こえてきた。どうやら、各国語版の案内テープを用意しているらしい。ナレーターの美木良介(仮名)は、ニュージーランドの地勢、歴史など、おおまかな紹介をした後で、交通ルールを説明した。それによると、車両が左側通行であるニュージーランドの交通ルールは基本的に日本と同様だが、一点だけ違うところは交差点での優先順位である。日本では、直進車、左折車、右折車だが、ニュージーランドでは、直進車、右折車、左折車の順になる。左折しようとしている時に、対向車線に右折車両がいれば、先に行かせなければならない。つい日本の感覚で先に左折してしまって、クラクションを鳴らされたことがあった。

「あ、すんません、すんません、日本人なので」

 と、車の中で謝ってみても、相手には分かるはずもなかった。この点さえ注意しておけば、ニュージーランドでの運転はこれといって問題はない。

 道路地図がどうしてこんなに簡単なのか、走ってみてその理由が分かった。道自体が実際に簡単だからにほかならない。ニュージーランドは日本に比較すると、大いなる田舎だと言っていい。国土は日本の7割強の広さだが、人口はわずか400万人に満たない。一方で羊は4500万頭もいるらしいが、だからといって連中が独自に羊街を形作っているわけでもないので、郊外の道のほとんどは周りに人家も見えないことが多い。要するに、点状にポツポツと分布する都市の間を、1,2本の幹線が繋いでいるという、極々単純な構造がこの国の道路網だった。オークランドなどは大都市と言えるだろうが、それでも日本の感覚からすれば極めてのどかで閑散としている。小さな地方都市ヘ行けば、交差点にもほとんど信号はなく、ロータリーシステムを採用している。交差点内をぐるぐると右回りして、目的の道へ左折して入って行く。日本ではほとんどお目にかかることはないが、交通量が多くない場合には実に合理的なシステムだと感心した。

 ニュージーランドの速度制限は極めて単純で、街の中は50キロ以下制限、街の外の幹線は100キロ以下の制限というのがほぼお決まりのパターンである。100キロで走る道というのがどんな道かというと、片側1車線の極く普通の道。日本だったら50キロ規制を受けるぐらいの道路で、郊外の国道か県道と同様の感じである。100キロで走るには最初はちょっと戸惑う道幅だが、すぐに慣れる。車の数が本当に少ないし、交差点にも歩行者にもほとんど出くわさないから、まったく安定したペースで走ることが出来る。100キロで走れるといっても、北海道のように真っすぐの道が延々続いているわけではない。北海道に比べれば、ニュージーランドの道は起伏があり、カーブも少なくない。起伏と言えば、ニュージーランドの道路は日本の道に比べてより自然に出来ていて、安全上はあまり好ましくない。日本人が几帳面で洗練されているというのは、こういうところにも出ているのだなと思った。どういうことかと言うと、例えば数メートル単位の小さな上り下りが繰り返されるような地形に道路を造る場合、日本なら、山の部分は削り、谷の部分は盛って、平らな走りやすい道に仕上げる。ところがニュージーランドでは、地形はいじらずにそのまま舗装をするから、走っているとジェットコースターのように上下動を感じて気持ちが悪くなる。坂の頂上から急に下ると、一瞬ヒューッと無重力状態のようになって体が浮き上がる。妻はその感覚に弱くて、その度に、

「ヒャア〜!お腹がくすぐったい!」

 と悲鳴をあげてもだえたから、横の私は面白くて、わざと減速しないで走った。道にこうした起伏が多いと、頂上部分から先のルートが見えなかったり、対向車の存在が隠れたりして安全上も問題があるので、交通量が多い日本ではおそらく道路設計上の構造基準に合わないだろう。季節は初夏であり、道に起伏が多く、また車が少なくて先まで見通すことが出来たので、道路には逃げ水がよく見られた。妻は逃げ水を見るのが人生で初めてだったそうで、とても面白がっていた。

 ニュージーランドの道を走っていてもう一つ合理的だなと感心したことがある。前述のように、100キロ制限の道でもカーブは少なくないから、なんでもかんでも100キロで走れるわけではない。カーブでは減速しなければ当然曲がり切れない。カーブの半径はもちろんそれぞれなので、特に山道で見通しのきかないような場合には、その半径はカーブに入ってみないとわからないが、入ってみてから減速が足りないことに気付いても遅い。ニュージーランドではそれぞれのカーブの手前にR80とかR60とかいった標識が設置されていて、その数字のスピードまで減速してやると、ちょうどスムーズに曲がれるようになっている。これは是非日本でも採用すべきだと思った。

 大いなる田舎であるニュージーランドには野生の生き物が豊富である。といっても、マオリが入植して、さらに白人がやってきてからは、随分と多くの種が絶滅に追いやられたようだが、それでもやはり野生動物は豊富だと言っていいだろう。その証拠に、道路を走っていると、数百メートルおきに何らかの生物が轢き殺されているのを目撃する。さすがに羊は倒れていないが、夜行性の鳥やらウサギやらが、夜間に大量に轢かれるらしい。ニュージーランドで夜間走行する時は、動物を轢くことを前提として走らなければならないとガイドブックに書いてある。夜間の郊外道路はおそらくほぼ暗黒であろうから、ヘッドライトに照らされるまでは彼ら動物の存在には気がつかない。目の前の動物を発見してから慌ててハンドルを切るようなことをしていると、とてもじゃないが危険なので、かまわずどんどん轢き殺して行きなさいということらしい。私としてはそんな真似はしたくなかったので、いつも明るいうちに慌てて宿を探したものであった。

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