出不精が行く!!
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NZ新婚旅行記 〜その10 その頭は〜

 クイーンズタウンを昼に出て、次の宿泊地であるテ・アナウに着いたのが夕方の5時ごろである。例によって、この街もまたそのままテ・アナウ湖という湖の畔にある。ニュージーランドのほとんど南端にあるこの場所は相当にのどかである。言い換えればとても田舎ということであって、自然に囲まれた実に美しい土地だ。日本人に人気だというモーテルも飛び込みですんなり部屋がとれるぐらいに人も少ない。モーテルは見るからに優しげな老夫婦が経営していて、すこぶる感じが良い。目の前には美しい湖の景色がひろがり、とても心地よい宿だ。

 6時頃から湖畔を散歩した。散策道を歩くと、テクテクと歩くばかりの野鳥が目に付く。近づいて行っても飛び立つことなくテッテケテッテケ走って逃げるところがニュージーランドらしい。ニュージーランドにはキーウィーをはじめとして飛べない鳥が多いが(そもそも天敵となる生物がいなかったための飛行能力の退化と言われている)、飛ぶ能力があってもなるべく飛ばないという鳥も多いように思う。散策道の先にワイルドライフ・センターなる施設があり、ニュージーランドの野鳥が多く飼われていた。なかでも一時絶滅したと思われていたタカヘという鳥は、ここでしか生きた姿を見ることができないそうで、極めて貴重な鳥らしい。これも飛べない鳥だが、キーウィなんかとは随分と体つきが異なる。とは言え、タカヘについては「ふうん」と思ったぐらいでさほど関心も持たなかったが、我々が「ムムッ!」と惹きつけられたのがベルバードなる鳥である。姿は詳しく記憶してないが、鳩っぽい姿をしていたと思う。もしかするとそのまま鳩の仲間かも知れないが、その鳴き声たるやまさにベルバードである。

「ピンポーン!」

 と鳴くのだ。ベルバードのベルは呼び鈴のベルだ。実に透明な響き渡る音で鳴く。

「なんじゃこりゃ、すげえ!」

 と夫婦揃って感動した。後に訪れた土地に野生のベルバードが多く生息する場所があって、公園の木々の梢からベルバードの鳴き声がこだまして実に幻想的だったという思い出があるが、それだけ特に印象に残っている鳥である。しかし、日本に帰ってきてその後にこの鳥のことについて見聞きした事が皆無である。数ある動物番組でも、ニュージーランドを特集した番組でもベルバードが出て来たのを見たことがない。これほど美しい鳴き声を持つ鳥のことをどうして取り上げないのか極めて不思議だが、おそらくベルバードはニュージーランドの南端にしか生息しない鳥であって、国内でもそれほど知られていない存在なのかも知れない。日本人の番組関係者がここまで訪れることは稀なのだろう。ニュージーランドの鳥といえば普通はキーウィだろうが、我々夫婦にとってはなんと言ってもベルバードである。

 散歩を終えてそのまま食事に向かった。とてもさっぱりした静かな商店街を通って中華料理屋へ入った。ニュージーランド料理には全く期待できないことを学んだし、日本料理店などほとんど存在しないので、旅の後半には中華料理を食べることが多くなった。この日の中華は本格的でかなり美味しくて、それだけに中国人の客も多かった。料理に関しては中国人は実に素晴らしいと思う。未知のものがあればとりあえず食っちゃう(その結果死んじゃったりすることもある)という話も聞く中国人だが、そうした食に対する熱意がこの優れた食文化を生んだのであろうと敬意をはらいながらも、彼らのやかましさには例によって閉口する。善し悪しは別として、やはり彼らは世界一騒々しい民族だろうと思う。閉口しながらも時々は口を開けて料理を食った。

 食事を終えてすっかり暗くなった商店街をのんびりと歩いて帰った。店はほとんど全て閉まっていて、道も暗い。あるブティックのショーウィンドウをふと覗いて吹きだしてしまった。女性のマネキンが立っているのだが、そのカツラのかぶり方がイカしてる。驚くほどのデコである。イタリアを旅行した時とは違い、この旅ではニュージーランド人のユーモアというものにあまり出くわさなかったけれど、これがただのミスではなくて茶目っ気なのだとしたらなんだか嬉しい。ステキなセンスだと思った。

 モーテルに帰りつき、疲れた体を癒そうとバスタブにお湯をはり始めた。ところが、いっこうにお湯が出ない。フロントに電話をするとしばらくたってから宿のおじいさんがやってきた。おじいさんが笑顔で説明するところによると、10部屋あるうちの8部屋が日本人客で、皆がバスタブにお湯をはるものだから、タンクのお湯が無くなってしまったのだという。しばらく待ってくれればお湯がまた溜まるから、それまで我慢してくれ、とのことだった。

「日本人はお湯に浸かる習慣があるからね、ははは」

 と、楽しげにわらうおじいさんだった。日本人に人気の宿ということが裏目に出た出来事であった。

 翌日はいよいよこの旅最後の見どころとなるミルフォード・サウンドへ行く。

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