出不精が行く!!
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うろ覚え中国旅行記 〜その4 至高のプーアルジャスミン〜

 麗江観光はこの日が最後であった。早朝、最後の麗江を散歩した。たぶん。写真もなく、記憶が定かではないが、きっとこの日のことだと思う。会社のKさんと二人で、まだ見ていなかったホテルの裏の方をブラブラ歩いた。なんともこれが素敵なのだ。

 普段の生活の中で、水路で食材を洗い、洗濯をして暮らしている人々の姿を目にすることだけでも、相当な文化衝撃(『カルチャーショック』を中国風に漢字にしてみた)だし、歴史的街並みはやはり時代を錯覚させてくれる。

「こんな世界がまだまだ世の中にはあるんだなあ」

 と改めて感心した。

 さて、朝食をとってホテルを出ると、そのまま空港へ直行して昆明へ戻った。空港からバスで向かったのは石林(せきりん)という景勝地だ。石灰質の岩盤が風雨による侵食や地震によって特異な形となり、鋭く尖った石山の林立する風景を作りだした。高さ数十メートルの石山が林のようにニョキニョキと並んでいる。面白い風景ではあるが、観光客が多すぎて、大自然の営みの偉大さに思いをはせて感慨に耽る、なんて精神状態になることは不可能だ。ただただうるさい。それに、タイトなスケジュールの中で広い敷地内をくまなく回ろうと思ったらそりゃ大変な労力なのだ。岩のところどころには展望台があって、そこへ上ったり下りたりするのが一苦労だし、とにかくのんびり眺めているわけにはいかない。とはいっても、実のところは、どこへ行っても大差ない景色だから、少し眺めたらあとは動かずにのんびりしていても別に構わなかったかもしれない。でもそこは日本人観光客の性というもので、時間の許す限り最大限の移動を試みないと気が済まない。まあ、いい運動にはなるけれど。

 石林側のレストランで昼食をとり、続いて向かったのはどこぞのお寺。その後もいくつかお寺を巡ったけれど、もう、どこが何やら、どんな由緒があるのやら、さっぱり覚えていない。というよりも、最初からよく分からずに、連れて行かれるまま、ただ眺めていたような次第。ただし『龍門石窟』はよく覚えている。初日に行くはずだったが、雨天だったためにこの日に変更になったスポットだ。絶壁にある道教の石窟で、赤を基調とした色鮮やかさは、いかにも中華を思わせる。眼下にテン池という湖を一望することが出来て、ここもまた観光客で溢れていた。展望台では湖を背景に記念写真を撮る人達がいっぱいいたが、会社のUさんがそうと気付かず、カメラの前にフラッと入って行ったら、被写体の一人の男がUさんの体を無言でグイッと押しのけた。なにか声を掛けるでもなく、見ず知らずの人の体をいきなり無言で押しのけるその精神の生々しさに、

「ああ、中国なんだなあ」

 と、実感させられた。

 さて、この日のことだったと思うのだが、お寺をひと通り見てまわった後には、『茶文化交流中心』なる所を訪れた。雲南のおいしい中国茶を紹介、振興する拠点らしい。ツアー客が揃って一室に閉じこめられ、そこで中国茶の入れ方、飲み方デモンストレーションが始まった。若い女性二人ぐらいが、お茶を入れて試飲させてくれるのだが、要するにセールスなのだ。

 でも、

「お土産は美味しいジャスミンティーを」

 という妻の要望だったから、私としては願ったりではある。

 ここでもまた、中国らしいなあ、と思うことがあった。そのお茶の入れ方だ。

 まず、お盆に複数の湯飲み(一杯が一口で飲めるぐらい小さい)を並べる。横には素焼きの赤茶色い急須がある。最初に、フタをした急須に外から熱湯をかけて急須を温める。これはかなり大胆に思える。お茶の入れ方は特に難しくなく、お茶っ葉(高級なお茶の多くは、丸い玉状になっている)を急須に入れて、熱湯を注げばいい。煎茶のように、湯冷まししたお湯を少し入れて葉っぱを蒸らし、何度かにわけて湯を注ぐ、というような手間はない。お茶が程好く出たら、茶わんに注ぐわけだが、それがまた大胆というか、大ざっぱというか、効率的というか、もったいないというか。とにかく、デローッとまとめて注いじゃうのだ。いちいち、ひとつに注いだら急須の口をあげて、次の茶わんに注ぐ、なんてまどろっこしいことはしない。お盆の上にこぼれようがおかまいなし。よく言えば潔いが、やっぱりかなり雑な仕事という感は否めない。このあたりは、日本人の感覚とはかなり違うなあと思った。

 この『茶文化交流中心』で紹介されたお茶は色々とあったが、私が買ったのは『ライチー紅茶』と『プーアルジャスミン茶』。『ライチー紅茶』のほうはそれほど高くなかったので(それでも6,70グラムで千円ぐらいする)、一般の皆さんへのお土産用、『プーアルジャスミン茶』はかなり高かったので(6,70グラムで3千円ぐらい)、自分の家庭専用とした。これだけの高級茶なら日本茶だって相当美味いんだろうが、この『プーアルジャスミン茶』はとにかく絶品だった。

 プーアル茶もジャスミン茶もよく耳にする中国茶の名前だが、これが一緒になったお茶はなかなか聞かない。なんでも、プーアルのお茶の木のよこにジャスミンを植えてやると、その匂いがお茶っ葉につくとかなんとか。これをちびた茶わんでクイックイッと飲むのがなんともたまらず美味い。

 中国の湯飲みは、湯冷まし用の(お茶の種類によっては少し冷ますのかと思われる)細長茶わんと、飲む用の広口茶わんがある。これがセットになった商品をまんまと買わされた。これ、お茶を注ぐとその熱で茶わんに描かれた(というか貼られた)龍の絵の色が変わるという、子供だましの商品だが、すっかり子供みたいに喜んで買ってきた。お茶を買ったら素焼きの小さい急須も付いてきたから(フタと本体が合わないという、かなりの粗悪品)、日本に帰ってから、いつもこの3点セットで『プーアルジャスミン茶』を飲んだ。かなり何回も出るし、出し過ぎても決して渋くならない。なんたって香りがすばらしいのだ。アロマ効果みたいなものなのか、日本茶やコーヒーなどを飲んでいるより、ずっとリラックスする。このお茶のおかげで、私はすっかり中国茶のファンになった。夫婦でこのお茶を飲んで過ごす時間は至福の時であった。

 が、その幸せも長くは続かなかった。買ってきたお茶は、数ヶ月もしないうちになくなってしまった。私たち夫婦は『プーアルジャスミン茶』が買える店を探した。ネットで検索もしてみたが、どこにもない。普通のプーアル茶やジャスミン茶ならどこにでも売っているが、『プーアルジャスミン茶』となると、中国でも雲南のあそこでしか手に入らないとガイドさんが言っていた気がする。確かに、中国人が経営する輸入中国茶の店へ行ってみても、『プーアルジャスミン茶』のことは知らなかった。

 仕方なく、他のジャスミン茶で代用してみても、やはりこのお茶の美味さには遥かに及ばなかった。いろいろ試してみてもあの満足感は二度と得られなかったから、せっかく身に付いた中国茶を飲む習慣もそのうちになくなってしまった。

 ああ、また飲みたい、至高の『プーアルジャスミン茶』。

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